翻刻
【右丁】
○武家(ぶけ)は大名小名に至(いた)るまで
との様(さま)といふつねに智仁勇(ちじんゆう)の
三ッをもつて国家(こくか)をおさめ文(ぶん)
道(どう)をまなび理非(りひ)のふん明(めい)を
正(たゞ)して慈愛(じあい)をもつて民(たみ)を
撫育(ぶいく)し天命(てんめい)をわきまへて敵(てき)を
くだく事を要(よう)とすこれを良(りやう)
将(しやう)とも名将(めいしやう)ともいふなり
○百姓(ひやくしやう)とかきておんたからと読(よむ)
ことなりあまたの民(たみ)をいふ事
なれども今は耕作人(くうさくにん)ばかり
を百姓(ひやくしやう)と思へり此/業(わざ)はわきて
手(て)まめ心まめなる人の田畠(でんはた)は下(げ)
田(でん)にても上田(しやうでん)のごとく実(み)のり五(ご)こく
豊饒(ぶねう)のさうをあらはし天下(てんか)を
おだやかになさしむる大/業(ぎやう)なり
【左丁】
○士農工商(しのうこうしやう)みな職(しよく)人なれ共今
は工人(こうじん)ばかり職人といひならはせり
番匠(ばんしやう)鍛冶(かぢ)其外一さいの上手(じやうず)たる
ものは上つかたの器用(きよう)をおさめ
あるひは受領(じゆりやう)など給はるゆへに
其わざを称美(せうび)していふなるべし
されば其家(そのいへ)に生(うまれ)たる人は能々(よく〳〵)
心をいれ後世(こうせい)に名(な)をてらすべし
○商人(あきうど)はそれ〳〵の品(しな)を職人(しよくにん)の
こしらへたる物(もの)を買取(かひとり)てその
あはひを取(とる)をもつて家職(かしよく)とす
されば正直(しやうじき)をたてゝ高利(かうり)を貪(むさぼる)
ことをせざるをよしとす偽(いつは)りを
いひて人をたぶらかすをかしこし
と思ふは欲(よく)といふものゝなす事
にて甚(はなはだ)あやふき世わたりなり