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コレクション: STAGE3

安政風聞集 上中下 全 - 翻刻

安政風聞集 上中下 全 - ページ 45

ページ: 45

翻刻

 居(ゐ)しが稍(やゝ)風なぎ雨 止(やミ)しかバ消失(きえうせ)たる行燈(あんどう)に灯(ひ)をうつし始(はじめ)て家(いへ)の   さまを見るに夜具(やぐ)着類諸道具(きるいしよどうぐ)まで悉(こと〴〵)く濡(ぬれ)ひたりぬそを片付(かたつけ)る  時彼(ときか)の娘(むすめ)の居(ゐ)ざるを不審(いぶかし)ミ家(いへ)の内(うち)を隈(くま)なく見るに影(かけ)さへ無(な)け  れバ親子(おやこ)三人ハ斯(かゝ)る中(なか)に苦(く)を増(ま)していかゞせし事ならんと互(かたミ)に  胸(むね)を悩(なやま)しむるに金子氏(かねこうぢ)いへるやう扨(さて)ハ彼地震(かれぢしん)に手(て)ごりし家の潰  るゝ事を怖(おそ)れて外方(とのかた)へ逃出(にげいで)ならんとて屋敷内(やしきうち)をあまさず捜(さが)  せど更(さら)に行衛(ゆくゑ)を知(し)らず兎角(とかく)する内(うち)夜ハ明たり斯(かく)て金子氏ハ  少女(おとめ)が行衛(ゆくゑ)を知らん為神仏(ためしんぶつ)に詣御御鬮(まうでミくじ)をとり易者(えきしや)に命(めい)じて占(うらな)ハ  するに極(きハ)めたる便(たより)を得(え)ず茫然(ばうぜん)として日(ひ)を過(すご)すに第(だい)六日 目(め)といふ  夜の五時 頃雨戸(ころあまど)を建隔(たてへだ)ちたる縁側(えんがハ)の方(かた)に彼(か)の娘(むすめ)の声(こゑ)して叔母(おば)  さま〳〵と呼(よび)けるにぞ親子ハともに審(いぶか)りながらいそがハしく戸(と)を引(ひき)  明(あけ)と見るに正(まさ)しく彼(かれ)なれバ手(て)を取(とり)て誘(いざな)ひ入其形勢(いれそのありさま)を打見(うちミ)るに  髪(かミ)の毛(け)ハおどろに乱(ミだ)れ衣服(いふく)ハ都(すべ)て泥(どろ)にまミれ面色青(めんしよあを)ざめて痩(やせ)  おとろへ然(しか)のミならず眉毛(まゆげ)ハ抜失(ぬけうせ)て跡(あと)もなくうつかりとして物(もの)をも  言(いハ)ねバこハ凡事(たゞごと)にあらずとて薬(くすり)を与(あた)へ介抱(かいほう)し暫(しばら)くありて様子(やうす)を  問(と)へども黙(もく)ねんとして更(さら)に答(こた)へず其(その)さま現(うつゝ)の如くなれバその夜ハ  伏臥(ふしど)に入(いら)しめて枕辺(まくらべ)に付添(つきそ)ふに娘ハ横(よこ)になるより早(はや)く生体(しゆうたい)も  なく死(し)せるがごとく睡(ねふり)に付(つき)ぬ斯(かく)て翌日(よくじつ)の七時頃(なゝつごろ)まで目覚(めさめ)ず夕暮(ゆふぐれ)に  至りて稍頭(やゝかしら)をもたげ四方(あたり)をきよろ〳〵 見廻(ミまハ)すにぞ親子(おやこ)三人ハ  又薬(またくすり)をあたへなどしそが様子ありしことゞも問(と)ひけるに此時(とき)娘ハ起(おき)  直(あが)り皆々に打向(うちむか)ひいへるやう儕(わらわ)ハ先夜(せんや)の風雨のおり余りに家の揺(うご)  めけバ若潰(もしつぶ)さるゝ事もやと庭(にハ)の方(かた)へ走出(はせいで)しに片辺(かたへ)より年齢(としのころ)十八