翻刻
|鯰太平記混雑噺(なまづたいへいきどさくさばなし)
市中隠士 大道散人戯作
|地(ち)に|居(ゐ)て|乱(らん)を|忘(わす)れずとうや|爰(ここ)に八万|奈落(ならく)のぬし|鯰(なまづ)ぬら九|郎(らう)
|水底(みなそこ)の|揺高(ゆりたか)といへる|者(もの)おのれか|強力無双(がうりきぶそう)なるに|憍(ほこ)り|家(いへ)|蔵(くら)|堂(どう)|社(しや)
をおびやかし|人命(じんめい)をそこね|天道(てんとう)に|逆(そむ)くことたび〳〵なればそのむかし
|鹿島太神(かしまだいじん)|経津主尊(ふつぬしのみこと)|天照(あまてらす)ほん|神(かみ)の|勅(ちよく)を|蒙(かふむ)りはせ|向(むかつ)て|生捕(いけどり)給ひ
|土(つち)の|獄舎(こくや)に|押埋(おしうづめ)てかんじん|要(かなめ)の|磐石(ばんじやく)をかきへとし|是(これ)を|征(せい)給い
ひしかば
ゆるがぬ|御代(みよ)と|栄(さか)えけるに|時(とき)給るかな|天(てん)給る|哉(かな)|頃(ころ)は|安政(あんせい)二年の|初冬(はつふゆ)|八百(やほ)
|万(よろづ)の|神々(かみ〴〵)|先(さき)をあらそひ|出雲(いづも)の|国(くに)へ|出陣(しゆつぢん)ありし|御留守(おるす)す|幸(さひハひ)なれ|時(とき)こそ
|来(きた)れと|揺高(ゆりたか)は|忽(たちまち)に|逆意(ぎやくい)を|震(ふる)ひ|謀叛(むほん)の|色(いろ)を|顕(あら)はしつヽ|会文(くわいぶん)
をもて|味方(みかた)を|招(まね)くに|兼(かね)て|都(と)したる|一味(いちみ)のめん〳〵|先(まづ)|一番(いちばん)に|馳(はせ)|来(きた)るは
|飛火(とびひ)|野(の)|隼太(はやた)|家(いへ)|焼(やき)。その火のもえ|出(だ)しには。|火(ひ)おどしの|鎧(よろひ)にさしこの|兜(かぶと)
|頭巾(づきん)をいたゞき。|火鉢(ひばち)の|指物(さしもの)|膝栗毛(ひざくりげ)の|弥二馬(やじうま)にもへたつ|斗(ばか)りなる
|紅(くれなゐ)の|厚総(あつぶさ)かけ|火勢(くわせい)|盛(さか)んに|馳(はせ)|加(くは)はる二番には|雷(かみなり)|語路(ごろ)五|郎(らう)|音高(おとたか)
二本|角(づの)の|前立(まへだて)|打(うつ)たりける|兜(かぶと)に夕立おどしの|鎧(よろい)|稲妻(いなづま)の|太刀(たち)に|虎(とら)の|皮(かは)の
|尻(しり)|鞘(さや)がけ|黒雲(くろくも)の|小間(こま)にまたがり下ぶち|打(うつ)て|馳(はせ)|加(くは)はる第三当にハ|伊豆(いづの)
国の|住人(ぢうにん)|突(つ)|浪(なみ)|冠者(くわんじや)。|出水(でみづ)の太郎を|始(はじめ)として|異類異形(いるいいぎやう)の|魔生(ましやう)のめん〳〵
|我(われ)おとらじとよりとぞれは|惣大将(そうだいしやう)|鯰(なまづ)の|揺高(ゆりたか)はいおくに|手配(てはづ)を突め|海手(うみて)の
|方(かた)へは|突(つ)|浪(なみ)|出水(でみづ)を|伏勢(ふせぜい)とし五七の雨六つ八ツの風を|相図(あいづ)として|火事(くわじ)|雷(かみなり)
を|前後(ぜんご)に|備(そな)へ|鯰(なまづ)は|自身(じしん)|真(まつ)さきにとんでぐら〳〵としてゆう出んその