翻刻
大□【正】九年三月卅日発行 デンキカンニユース 第六十七号
(六)
【六頁上段】
内外時事
クラーク嬢名画『七つの白鳥』
曽て慶応
の映画研究
会に於て私
写し、非常
なる好評を
得たる名花
マーガリツ
ト、クラー
ク嬢の名画
七つの白鳥
は近く上映
さるべし。
原作者……ゼー、シヤーアル、ダウレー氏
監督………ゼー、シヤーアル、ダウレー氏
撮□【影】…………レイマン、ブローニング氏
発売…一九一七年十二月パラマウント社
神秘劇 (七つの白鳥) 全五巻
"THE SEVEN SWANS"
Cast of Characters
Princess El□se【Elise?】 Wilhelmin□
Augu□ta【Augusta?】 Fweedledee【Tweedledee】...............
...... Marguerite Clark
Queen Olga .............. Augusta Anderson
Prince Charming ...... Rishard Barthelness【Richard Barthelmess】
懸案の週替問題
永らくDの問題なりし週替興行に就ては今
日迄Dは極力□穏健に其実行を迫りつゝあ
りしも未だその意を得ざりき。されど最早
諸賢の熱望と時代の要求黙し難くDは最後
の交渉を開けり。賢明なる日活社は恐らく
進んで其要求を容るべく、且Dは改造の第
一歩として近く週間興行たるべく言明す。
【六頁中段】
海外発売二大映画
名優フランク
キーナム氏映
画『燃ゆる余
炉』はパテー
社を通じて発
売せり。氏近
来の傑作也。
"SMOLDERING EMBERS" 5 Reels
THE CAST
John Conroy .................. Frank Keenan
Jack Manne□s【Manners】 ..................... Joy Belasce【Jay Belasco】
Beth St□fford【Stafford】 ............... Kale【Katherine】 Van Buren
Tramps .............................. Russ Powell
最近『ベラ、ド
ンナ』『トス
カ』に非凡な
る技倆を示し
たるポーリン
フレデリツク
嬢映画『恋の
レテイー』はゴールドイン社より発売せり。
"THE LOVES OF LETTY" 5 Reels
THE CAST
Letty Shell .................. Pauline Frederick
Rechard【Richard】 Perry .................. John Bowers
Marion ........................... Florence Deshon
一旬一言
駁論として
章太郎生
ニユーズでO氏が友人の偏狭な邪論を掲
示して、それに対する駁論を要求して居ら
【六頁下段】
れる。自分の感想を記して二氏に対する。
【傍点ここから】監督と俳優との間に統一誘導の行為はなく
単に妥協があるばかりである、以下監督は
作者の化身である。までを視るに【傍点ここまで】、先づ監
督は作者の化身たることは認める。然し俳
【傍点ここから】優と監督との間に統一なく妥協のみ【傍点ここまで】と来て
は黙視することは出来ない。妥協其物は統
一綜合の為事を完了した結果として生すべ
きものではないか。又【傍点ここから】俳優には各自の統一
は不要なり【傍点ここまで】とは何の事だか解し兼ねる。
試みに俳優が作者の意を解せず、個々の意
見に依つて各自のカストを□出する――即
統一を無視した方法で演じた時、其映画に
対して完全無欠と言ひ得る事が出来るか?
【傍点ここから】監督は俳優に□【作?】品の内容を示さないで、そ
の場合々々の心理を説明し自ら思ひ通りに
動かすそこに完全の統一が出来る【傍点ここまで】。とも云
つてゐる。咸【「成」の誤植か】程O氏の評して居られる如く
邪論に違ひない。作品の内容とは瞬間々々
に衝動する心理ではないか。各自の心理は
即ちその作品の内容を最も詳細に、緻密に
表示し物語るものではないか。此場合私は
氏の論じて居られる内容とはその作品の筋
を指適【「摘」の誤植か】したものと考へる。
全部を通じて、氏の論説には何等の意義が
ない。そして上調子な思想に依つて終始し
てゐる。氏よ再度芸術品の成立を論評しよ
うと想はれるなら、もつと〳〵徹底した論
拠を捉へて、忠実に、真摯に批評して頂き
たい。
フラ〳〵主義は芸術のみならず、社会に存
在する総ての事物に対して大禁物だから。
大津君の御意見如何?
(七)
大正九年三月卅日発行 デンキカンニユース 第六十七号
【七頁上段】
大観小観
友と自分の感想
内田徳司
理智的な友のKは云ふ『監督の力は偉大
である。一個の特性の所有者であれば、そ
れは名監督の前には名優となる資格がある
監督は俳優を造る力がある。ハート劇のそ
れから大インスを取り去つたたらば気の抜
けたビー□【ル?】の如し』だと。又Sは云ふ『如
何なる名監督の作品でも俳優に於て欠げた
作品は或はその印象は大いかも知れぬが、
甚だ薄いものだ。繊細なそして鋭い印象は
俳優其ものゝ芸術から来るのだ。たとへば
原作や背景や監督が劣つてゐても名優が演
じたならば、それが立派な作品となり得る
のである』と、極端な言葉である。自分は
言ふ『現在の映画は監督を本位とした者と
俳優を本位としたものとの二種ある。然し
その優れた両者が合致してこそ其処に真の
綜合芸術なる映画が成立するものだと思ふ
【傍点ここから】俳優各自が理解してゐたら監督は不必要で
あると、また俳優なり監督を生かすには其
何れかを犠牲にせねばならぬ【傍点ここまで】』と。然し自
分は監督が映画を芸術化すべき必要によつ
て生れた以上、最大要素たる俳優の芸を阻
害してはならぬ。否より以上表現せしめな
ければならぬ。然し俳優の演ずる芸術は断
片的である。それを連鎖し綜合することが
監督の力であり務である。
私はある場合、原作から来る芸術的色彩は
失せても、其処に新しい映画芸術が生じた
【七頁中段】
ならば、勿論監督及俳優の力を讃美するに
吝でない。
フアーラーを待ちつゝ
寺島春宵
愛らしい瞳に涙を浮べてフアイスはバツ
クに悔悟を追つた。
――貴方のお母さんは、バイブルの言葉の
通り『汝盗むなかれ』と誡めなかつたのです
か?私は、あなたのお母さんに代つて貴方
に申します―――。
清き彼女の心、そしてその言葉……何と云
ふ美しさであらう。流石にバツクは返す言
葉がなかつた。彼は眼を閉して頂【「項」の誤植か】垂れた。
【傍点ここから】この瞬間!私はある大なる力にでも打れた
様に目をつぶつた。と不知涙が頬を伝ふ【傍点ここまで】。
情深いバツクは善人に生れ変つた。そして
一命を捧げて社のために戦つた。愛人も得
た。……と新活路に入つた彼の前途を祝福
するかのやう。旭日が雲の割目からパツと
照り栄える。
【傍点ここから】おゝ何と云ふ自然、何と云ふ結構であらう。
すが〳〵しい朝の気を吸ふて大自然の前に
二人の姿を見出した時の心地よさ【傍点ここまで】‼
ポーリンの『蛇苺』――以前の沙漠の人影
に一寸似寄つた所もあつたが、あまり好い
映画とは云はれないと池の蛙の私は思ふ。
【傍点ここから】只フレデリツクの芸風を見るだけだ【傍点ここまで】。然し
ラスシーンだけは頗る光つてゐた。
ベラ、ドンナ
京橋 秋渓生
久し振りのクラーク!次で亦ポーリン!
二年振りでDのスクリンに見出したのは嬉
しい事だつた。
『蛇苺』は期待と憧憬を充して尚余りあるも
のであつた。蠱惑的な瞳!男を征服する悦
【七頁下段】
楽の笑!嫉妬と絶望と無念の悲み!【傍点ここから】妖婦ド
ンナの大胆な奔放な生涯から、夜の狼の沙
漠に身を横へた彼女の末路の凄惨なシーン
を思ひ出すと、運命の支配の恐しさが身に
滲みて来る【傍点ここまで】。そうした役の、殊に後半の嬢
の技倆は光つてゐた。地方色と背景の豊か
な点、染調色の周到な点に於ても立派であ
つた。只伴奏の足りなかつたのが遺憾だ。
ハートの『鉄路の狼』は一層活劇色彩の鮮明
なものであつた。【傍点ここから】改悟して乾分を捕へるの
は変だが、そこがハート劇□【の?】真随【「髄」の誤植か】である【傍点ここまで】。
西部で始めて接した若い異性と共に一定不
変の定律の原素である。疾走中の汽鑵車に
飛び移る所、ヘレンを想はせた。
Dの快腕益々鮮か、今後を期待す。
随感
秀峰生
【傍点ここから】Sハートの劇も漸次平凡化して来た【傍点ここまで】。と
云ふ或フアンの言葉を僕は耳にした。【傍点ここから】彼等
はハート劇の真随【「髄」の誤植か】が那辺に存するかを知ら
ないのだ。誰か彼の映画を凡と言ふは【傍点ここまで】。
見よ『鉄路の狼』を、その洗練された技芸、
円熟せる才能、重みある動作、僕は彼の芸
術の前には賞讃の辞を惜まぬのである。
『蛇苺』美貌を餌に、異性を弄び金を貧【「貪」の誤植か】る魔
女も天の制裁か、遂にはどの男にも捨てら
れて取りつく島も、憩ふべき木蔭もなく、
浅ましくも沙漠の砂に埋れ、白□を晒す妖
婦の薄命なる経路が、フレデリツク嬢の深
刻な技倆により徹底的に演ぜられ、深き印
象を与へた。
両者とも期待に背かざる映画だつた。
大正九年三月卅日発行 デンキカンニユース 第六十七号
(八)
【八頁上段】
灯ともし頃
松本恒四郎
□【ハ】ート劇と聞いて駈け出したのは、フレ
デリツクの『蛇苺』と聞いて飛出したのか、
自分ながら分らない。が恐らく嬢の容姿に
誘惑されたのではない。あの二挺拳銃を眼
前に突きつけられ、恐しさの余り駈け出し
た事と信ずる。【傍点ここから】それ程ハートの劇は雄大で
ある。黒光りする拳銃の筒先には新たなる
未来がひそんでゐる【傍点ここまで】。
『鉄路の狼』は彼の性格を表現し得るに足る
雄編であつた。終始山賊の親分とパブロ、
パスクツルの活躍で、凄い挌闘が演ぜられ
た。車輪の響き高く進行する列車の中や、
走り行く機関車を追ふて馬上狂奔する様等
痛快であつた。殊に母の急病に接して馳せ
行く場面より母に誡められ感激する辺り、
淋しいシヽリアの曲が非常に引き立せた。
金色に輝やく旭日の原野に、馬上豊かに楽
しき若人の語ひ!
『蛇苺』は美しいフレデリツクの独舞台で、
不思議な運命の下に悩み苦しむベラ、ドン
ナの半生……魔性の女の屍は、沙漠の砂に
埋れて永久に消えてゆく。異性を弄び、虚
栄に憧るゝベラ、ドンナの極めて赤裸たる
プロツトと真に文芸写真の名を失はなかつ
た。次回はフアーラーの大映画『神に見離
された女』とよ!さらば来る日を……。
親愛なD坊君
MLC静美
親愛なD坊君!『沙漠の人影』以来、久方
振りで懐かしい君のスクリーンに接する事
が出来た。
【八頁中段】
私の好きなフレデリツク!そして『蛇苺』!
傑作だ正しく!【傍点ここから】然しあれを評するには、先
第一に一九一五年作である事を考へねばな
らぬ【傍点ここまで】。南欧物に見る様な美しい染色に、フ
レデリツクの勝れた表情が私の心を喜せて
呉れた。そして………
相変らずの山賊劇、【傍点ここから】ハートはその輪廓から
一歩も出られないのか知ら?それが彼の真【傍点ここまで】
価か知ら?私には何等の印象も残さなかつ
た。然し美しい染色に酔はされた。
親愛なD坊君!音楽を改良したらどうです
か。説明を改善したらどうですか。
改造の急務だ。そうしたらD坊は………。
D坊しつかりしろ!
T坊主
おいD坊しつかりしろ!
Cツて弟が生れたんだから。お前は兄貴に
なつたんだから………。
だからD坊しつかりしろ!折角兄貴になつ
たのだから、弟の手前もある。兄貴風を吹
かす程、お前は兄貴振つて貰ひ度い。
民衆芸術ばかりゴチヤ〳〵してる浅草でも
多少は高踏的な気分が欲しい!その位にや
つて貰はないと第一弟のしめしが付かぬ。
俺の言ひたいのはこれだ。之を具体化する
方法は幾らもあらう。がまづホワイトさん
モンノさんで代表してる所謂連鎖物は全然
弟に呉れて了ふのだ。D坊は兄貴なんだか
ら、そんな講談武勇伝には手を出さないで
気の利いたものをおやり!
【傍点ここから】音楽も好くなつたけれど、只奇麗な楽を無
意味に奏つてゐるんぢやものにならない。
【八頁下段】
画の精神を取つたテマを中心とした一貫し
たものでありたい【傍点ここまで】。
かうして俺はお前が日本のリアルドとなり
キヤピタルシアターとなる事を待つてる。
蛇苺の感想
赤い花生
曩に『奴隷市場』に深刻な雄大な芸風を示
し、今また肉も魂も腐り果てた魔性の女が
沙漠の中で、淋しく死に就くと云ふ径路を
巧妙に表はしたもので、殊にラストシーン
が強い気分を与へた。原作者の女性観が遺
憾なく示されて、且ヅーカー氏の監督に依
つて一層力強い閃きと暗示を与へた。撮影
法も温和的で真摯である。バツクの配置や、
繊細な技巧上の点までも注意深い手腕が窺
はれた。染色も場面とよく調和して劇的色
彩が申分なく映画の上に表はれてゐた。
フレデリツク嬢の技倆は既に定評あること
だが、こうした妖婦役に進むべきか、悲劇
情緒劇に歩むべきか。注目すべきである。
ホルデイング氏は嬢の相手役としては聊か
貧弱であつた。
蛇苺を見て
神田晃山生
『蛇苺』を見た。到底平凡たるべき筋を、
此処まで引緊めた周到と緻密な用意に敬服
する。就中フレデリツク嬢の濃艶な容姿に
は何者も魅殺せずにはおくまい。
だが欠点とすべきは、沙漠に於ける一場面
が舞台上の劇として明かに見られたのと、
【傍点ここから】最後の悶絶に終るあたり、瀟洒として芸術
的映画には最も相応はしいが、元来広濶な
るべき大沙漠の天地を、一齣の狼によつて
狭ばまれたのは遺憾であつた【傍点ここまで】。
定価 一部 三銭 郵税 二銭
広告一行(六号十四字詰) 八十銭
《割書:発行編輯|兼印刷人》 森田勝祐
《割書:浅草公園六|区三号八番》 デンキカン社
電話下谷《割書:三六二二|五七七七》
【表紙:1枚目の画像と重複するため省略】