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翻刻
燈ともし頃
松本恒四郎
ハート劇と聞いて駈け出したのか、フレ
デリツクの『蛇苺』と聞いて飛出したのか、
自分ながら分らない。が恐らく嬢の容姿に
誘惑されたのではない。あの二挺拳銃を眼
前に突きつけられ、恐しさの余り駈け出し
た事と信ずる。それ程ハートの劇は雄大で
ある。黒光りする拳銃の筒先には新たなる
未来がひそんでゐる。
『鉄路の狼』は彼の性格を表現し得るに足る
雄編であつた。終始山賊の親分とパブロ、
パスクツルの活躍で、凄い挌闘が演ぜられ
た。車輪の響き高く進行する列車の中や、
走り行く機関車を追ふて馬上狂奔する様等
痛快であった。殊に母の急病に接して馳せ
行く場面より母に誡められ感激する辺り、
淋しいシヽリアの曲が非常に引き立せた。
金色に輝やく旭日の原野に、馬上豊かに楽
しき若人の語ひ!
『蛇苺』は美しいフレデリツクの独舞台で、
不思議な運命の下に悩み苦しむベラ、ドン
ナの半生・・・・・魔性の女の屍は、沙漠の砂に
埋れて永久に消えてゆく。異性を弄び、虚
栄に憧るゝベラ、ドンナの極めて赤裸たる
プロットと真に文芸写真の名を失はなかつ
た。次回はファーラーの大映画『神に見離
された女』とよ!さらば来る日を・・・・・・。
【以下、2枚目の画像と重複するため省略】