翻刻
【右】
盡(つく)して治療する醫者は希(まれ)なり。病人の大なる
不幸(ぶしあはせ)にして。嘆(たん)ずべきことそかし。因(ちなみ)に載(の)す。或人
時めく醫者に。火消壷(ひけしつぼ)に火を納(いれ)るに。たち
まちに消(きゆ)るはなにがゆへと問(とい)けれは。蓋(ふた)して火氣(くわき)
をもらさぬにより消(きゆ)るといひけり。醫として
これらの理にくらきは捧腹(ほうふく)【「ヲゝワラヒ」 左ルビ】すべきことなり。そも〳〵
人間(にんげん)は天地の正氣をうけてうまれ。天地は父母に
してこれを生育(せいいく)す。故に水土によりて人の
【左】
氣象(きしやう)もひとしからず。其/生(しやう)ずる物も差別(しやべつ)あり。
醫の病を療するも。万物造化(ばんもつぞうくわ)の理(り)に殫思(たんし)【「ヲモヒヲツクス」 左ルビ】して
後(のち)。人の病を治療すべし。萬(よろづ)の藝術のごとくに。
容易(ようい)にあきらめがたき藝(しわざ)なり。しかるを世人は。たゞ
頭(あたま)が丸(まる)く竹箟(ちつへい)を挾(はさ)み。口辨(こうべん)【「クチリコウ」左ルビ】よく阿順(あじゆん)【「ヘツラヒ」 左ルビ】なる者を。
良拙(じやうずゝた)のわきまへもなく用(もちひ)るにより。形容(なりかたち)さへ
醫/体(てい)をそなへて。人の氣に入やうにすれば。今日を
おくるに渡世(とせい)ができるゆへに。家産(すぎわい)を破(やぐ)りし者。