翻刻
【右】
剃髪(ていはつ)して醫者と化(ばける)がおほし。さればこそ
世の中に。庸醫みち〳〵て人をそこなふこと
甚大(はなはだおほい)なり。顯道(あきみつ)弱冠(をさなき)より先(ちゝ)考/家兄(あに)の膝下(しつか)に
侍(はべ)りて。治療を傍観(ぼうくわん)【「ソバニミル」 左ルビ】すること久しく。又みづ
から治療せし所も万を以てかぞふべし。
其あいだ此病を療することもつともおほし。
その聞えありてや。異(こと)なる術(じゆつ)もあらんかと。
遠方(ゑんほう)よりも訪(とひ)きたりて。診視(しんし)治療を乞(こひ)もとむ。
【左】
それが中におり〳〵しるしを得(ゑ)たるもあれど。
大かたは偶中(まぐれあたり)にて。内にみづから顧(かへり)みれば。背中(せなか)に
汗(あせ)することおほし。その手近(てぢか)きにいたりては。附子(ぶし)
石膏(せきこう)の二症(にしやう)だにわかつこともあたはずして。
おほくの月日をすぐし待りぬ。今や稀古(きこ)の
齢(とし)をこえて。拙(つたな)きむかしの問(と)はずがたりも
はづかしけれど。醫業(いぎやう)はかたきことにして。凡庸(ぼんよふ)【「ナミ〳〵ノヒト」 左ルビ】の
なすべき藝(しわざ)にあらず。故に庸醫は常(つね)に多し。