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コレクション: STAGE7

風俗畫報臨時増刊第百十八號 大海嘯被害録(上) - 翻刻

風俗畫報臨時増刊第百十八號 大海嘯被害録(上) - ページ 29

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【上段】    ●船越村 船越村(ふなこしむら)は東閉伊郡の最南(さいなん)にして船越、田(た)の浜(はま)大浦の三|字(あざ)より成 る全村(ぜんそん)船越湾に臨(のぞ)み漁業を以(もつ)て生活す此地の被害(ひがい)は比較的釜石 に勝(まさ)るとも劣らざるの大惨状(だいさんじやう)にして田の浜(はま)の如きは全部ニ百三 十六戸一戸を余(あま)さず流亡し千三百人中|惨死(さんし)を遂ぐる者九百四十 五人|誰(たれ)か其激烈なるに驚倒(きやうたう)せざるものあらんや家屋(かをく)船舶(せんはく)の破片 は算を乱して湾内(わんない)に漂ひ人の屍、牛馬(ぎうば)の屍其間に交(まぐは)りて腐爛に 任す船越亦山の内と称(しやう)する丘上の小字(こあざ)を残すの外海岸全く破滅 して一物を止(とゞ)めさる田の浜(はま)と同しく同胞(どうはう)及牛馬の屍は砂中各所 より現れ出るも壮丁|全(まつた)く尽きたる事(こと)とて之を如何(いかん)ともする能は す已むなく破片を集(あつ)めて之を火(や)き此処|彼処(かしこ)に愁煙の異臭を放(はな)つ を見(み)る 地峡を躍り越ゆ  船越村(ふなこしわん)と山田湾との間(あひだ)には小半島の両湾(りやうわん)を 割断せるありて船越村は一|地峡(ちけふ)の如くなれり然(しか)るに海嘯は十|余(よ) 丈(ぢやう)の高さを以て船越|村(むら)を一掃し去(さ)り更に其地峡(そのちけふ)を躍り踰(こ)えて山 田湾と相通じたれば右(みぎ)の小半島は宛然(ゑんぜん)一孤島の如(ごと)くなりぬ ○計(はか)らさりき我子(わがこ)ならんとは  船越村(ふなこしむら)辺(へん)の漁夫(れうふ)なりとか当日 海上に出漁(しゆつぎょ)し居(を)りしか海嘯(つなみ)ありとは夢にも知(し)らす流れ来る三人 の子供(こども)を救ひ上けしに計(はか)らさりき其(その)一人は我子(わかこ)なりしならんと は 船越村の飢餓  同村の民家(みんか)は殆んど全滅(ぜんめつ)に帰したるが其僥倖 にして一縷の命(めい)を維(つな)ぎおる遺民も今は食ふに穀(こく)なく寝るに屋な く其|窮境(きうきやう)実(じつ)に目も当てられぬ光景(くわうけい)なり    ●織笠村 織笠村(おりかさむら)は船越村の北(きた)に在(あ)りて山田湾に臨(のぞ)み戸数百九十、人口(じんこう)九 百四十の一|漁村(ぎょそん)なり是亦|海嘯(つなみ)の惨禍に罹(かか)り家屋の倒壊(たうくわい)九十五戸 【下段】 惨死者(さんししゃ)六十五|人(にん)あり    ●崎山村 崎山村(さきやまむら)流亡戸数六十五戸、死者(ししゃ)百十五人、負傷者(ふしやうしや)二十名    ●磯鷄村 磯鷄村|流失(りうしつ)家屋(かをく)百二十戸、死者八十名、負傷者(ふしやうしや)百余名、船舶(せんはく)は一 隻を残さず悉(こと〴〵)く押(お)し流(なが)されたり其数未詳    ●重茂村 重茂村|全村(ぜんそん)流失(りうしつ)片影を止めざるの惨状(ざんじやう)にして死者七百|余名(よめい)其纔 に生存せしもの過半(くわはん)は重傷を負(お)ひて苦悶せり駐在(ちうざい)巡査(じゆんさ)同く災厄 に罹り死亡(しぼう)す船舶は片隻(へんせき)を止めず牛馬(ぎうば)の死せしもの百|頭(とう)以上な り    ●山田町 山田町は戸数(こすう)七百八十六戸の中|潰家(つぶれや)凡三百九十三戸位|浸水(しんすゐ)家屋 前同断位にして死者(ししゃ)凡そ二百名以上|負傷(ふしやう)数知れず 此地は海辺(かいへん)に家屋あり家屋と後山(こうざん)との間に水田(すゐでん)あり海嘯(つなみ)の来襲 するや其|物音(ものおと)を聞きて逃出せるもの水田中(すゐでんちう)に陥ゐりて進退自由 を失へる所へ無惨(むざん)にも激浪(げきらう)渦巻き来りて遠く海中(かいちう)に捲き去りた るもの多しと ○当日の模様(もよう)  午後八時半 (此地(このち)吏員の時間(じかん)は時計の狂へる にや皆(みな)相違せり只聞くがまゝを記(しる)す)の頃|大地(だいち)水平動の軽震を 感じて其|時間(じかん)極めて長く而も間断なく九|時半(じはん)頃迄震動したれば 尋常の事に非(あら)ずと思惟して戸外に出(い)でしに大|釜崎(かまさき) (湾口に在り 平日波の当(あた)る音(をと)釜の如く聞ゆ故に名く)の方に当て海(うみ)の鳴るを 聞(き)く然れども平日の音(をと)と違ひてゴー〳〵と一|齊(せい)に継続して鳴る ゆゑ必ずや海嘯(つなみ)なるべしと思ひ慌(あわ)てゝ人々を喚(よ)び起し早く逃去 らしめんとするうち音は万雷の一|時(じ)に落るが如く恰(あたか)も山の崩る ゝ勢にて十丈余の激浪(げきらう)矢を射る如く進(すす)み来りしかは俄(にわか)に山に攀 【左頁挿絵四枚、次コマへ】