東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: コレクション 2

小児必用養育草 - 翻刻

小児必用養育草 - ページ 154

ページ: 154

翻刻

【右丁】 との意なりと見えたり紙鳶(しゑん)とは 日本いふ所のいか のぼりの事なり 本邦(ほんほう)にても多く児に此 戯(たはむれ)をな さしむる事なり此比の俗(ぞく)はその意(こゝろ)をさとさず奢(おごり)を のみ好(この)み紙鳶(いかのぼり)を作(つく)るにその大さ五六尺はかりにして 金銀(きん〴〵)をちりばめ糸(いと)を長くつけて健(すくやか)なる男に挙(あけ) させてたゞ人の目(め)をよろこばしむる事のみにして 財(ざい)を費(ついや)すのみにあらず其 益(ゑき)なし紙鳶(いかのぼり)の戯(たはふれ)をな さしめんとおもはゞそのかたちをちいさく作り小児(せうに) みづから風にむかひて吹(ふき)あげさせ空(そら)を見て気を はき熱(ねつ)をもらしかけ廻(まは)りて歩行(ほかう)をのづから健(すくやか)に なる事をしるべし能々可心得事也 【左丁】 ○毎年(まいねん)正月に女子は欒華子(むくれんじ)【ママ】に羽(はね)をつけて板(いた)にて つかしむるなりこれをこきの子と名(な)づくなりこきの こといふ木の実(み)の形(かたち)に似(に)たるをもていふなりこきのこ といふもの叡山(ゑいさん)にあり他所(たしよ)にて見ぬものなりその 実(み)山梔子(くちなし)の形(かたち)のことくにして山梔子よりは実の尖(とがり) のさき長くして粒(つぶ)は円(まろ)くあればそのまゝ欒華(むくれん) 子(じ)に鳥(とり)の羽(は)をつけたるごとく見ゆる世諺問答(せいげんもんだう) にはおさなきものゝ蚊(か)にくはれぬまじなひ事なりと いえり《割書:啓益》按するにさにはあらじ小児は熱(ねつ)のつよ きものなれは此 戯(たはふれ)をなさしめて風にふかれ空(そら)に むかひて気(き)をはかしめて熱をもらさんとの事なるべし