翻刻
【右丁】
青渭堤(あをゐつゝみ) 青渭神社(あをゐのしんしや)の辺(へん)なり古(いにしへ)は青渭(あをゐ)の湖水(こすゐ)湛(たゝへ)たりしを後(かう)
世(せい)堤(つゝみ)を切開(きりひら)きて水(みつ)を乾(かわか)し耕田(かうてん)となすといへり故(ゆゑ)に今(いま)此所(こゝ)
彼所(かしこ)に六七 歩(ほ)或(あるひ)は十 歩(ほ)にあまれる塚(つか)の如(こと)きもの残(のこ)り存(そん)して
草樹(そうしゆ)繁茂(はんも)せるは其堤(そのつゝみ)の旧跡(きうせき)なりといふ
浮岳山(ふかくさん)深大寺(しんたいし) 昌楽院(しやうらくゐん)と号(かう)す深大寺邑(しんたいしむら)にあり《割書:此所(このところ)も佐須村(さすむら)|と云(いふ)昔(むかし)は柏野(かしはのゝ)》
《割書:里(さと)と号(かう)せ|しとなり》太古(たいこ)は法相宗(ほつさうしう)なりしか恵亮和尚(ゑりやうくわしやう)以来(このかた)天台宗(てんたいしう)に改(あらた)む
本尊(ほんそん)は宝冠(はうくわん)の阿弥陀如来(あみたによらい)恵心僧都(ゑしんそうつ)の作(さく)なりといふ当寺(たうし)は
福満童子(ふくまんとうし)の宿願(しゆくくわん)によりて天平(てんへい)五年癸酉に草創(さう〳〵)する所(ところ)の
佛域(ふついき)なり《割書:日本年代配合鈔(にほんねんたいはいかふしやう)に曰(いはく)天平勝宝(てんへいしようはう)|二年庚寅 深大寺(しんたいし)建立(こんりふ)云々》四十七代 廃帝御宇(はいていのきよう)
に勅願所(ちよくくわんしよ)と定(さため)られしより平城(へいしやう)清和(せいわ)両朝(りやうちやう)も又(また)勅願所(ちよくくわんしよ)と
なし給ひしと云
元三大師堂(くわんさんたいしたう)《割書:本堂(ほんたう)の前(まへ)左(ひたり)に傍(そひ)てあり寺記(しき)に云(いふ)応和(おうわ)四年 慈恵大師(しゑたいし)|叡山(えいさん)に於(おい)て自(みつから)彫刻(てうこく)なし給ひし霊像(れいさう)なりしを慈忍(しにん)》
《割書:和尚(くわしやう)と恵心僧都(ゑしんそうつ)と心(こゝろ)をひとつにし武蔵国(むさしのくに)深大寺(しんたいし)は代々(よゝ)の帝(みかと)勅願(ちよくくわん)の地(ち)にして|尤(もつとも)灵跡(れいせき)たり永(なか)く此(この)影像(えいさう)を遷(うつ)し奉(たてまつ)りて関東(くわんとう)の群生(くんしやう)を化益(けやく)せんとて正暦(しやうりやく)二》
【枠外】 三ノ百五十七
【左丁】
《割書:年の春(はる)こゝに安置(あんち)なす尓来(しかりしより)霊応(れいをう)いちしるく月毎(つきこと)の三日十八日 殊(こと)に正五九月|の十八日には別業(へつきやう)護摩供(こまく)を修行(しゆきやう)あるか故(ゆゑ)に近郷(きんかう)の人 群参(くんさん)せり此日(このひ)門(もん)|前(せん)に市(いち)を立(たて)る》
降魔尊像(かうまのそんさう)《割書:先(さき)の霊像(れいさう)と共(とも)に叡山(えいさん)より当寺(たうし)に遷座(せんさ)|なしまゐらすと云 灵験(れいけん)尤(もつとも)著(いちしる)し》五大尊石(こたいそんせき)《割書:大師堂(たいしたう)の北(きた)の|山際(やまきは)清泉(せいせん)の》
《割書:中(うち)にあり此水(このみつ)旱魃(かんはつ)にも減(けん)する事なしといへり土人(としん)旱魃(かんはつ)の|年は此所(このところ)に来(きた)り此水(このみつ)を汲干(くみほさ)んとす果(はた)して膏雨(かうう)ありとなり》要石(かなめいし)《割書:同(おな)し泉水(せんすゐ)の|中島稲荷(なかしまいなり)の》
《割書:宮(みや)の傍(かたはら)にあり昔(むかし)此山(このやま)崖(きし)なと崩(くつ)るゝ事 屡(しは々)なりしかは|其頃(そのころ)の寺主(ししゆ)祈念(きねん)して此石(このいし)を建(たて)て要石(かなめいし)と号(なつ)くと云》鐘楼(しゆろう)《割書:大師堂(たいしたう)の後(うしろ)の|山上(やまのうへ)にあり》
武蔵国多東郡深大寺
奉治鋳槌鐘 長四尺三寸 口二尺三寸
右伏以当山蒲牢開基以来革更其数不一或雖冶
鋳有破裂而無声或雖討得有薄畧而不鳴爰緇素
数輩競勠力廼命鳬氏遂鋳鴻鐘当知三宝埀感諸
天降臨仰顛 皇風永煽佛日弥明伽藍鎮静法輪
常転更乞諸檀施主二世善願一切成就仍昭銘功
徳其辞曰
寺号深大 山名浮岳 新鋳鳬鐘 声形卓犖
百千万劫 定期渺邈 驚起塵夢 消除煩濁
滅罪生善 令人正覚
永和二年丙辰八月十五日 大工山城守宗光
大行事院主法印権少僧都辨運
別当前大僧正法印大和尚位守慧
亀島弁財天(かめしまへんさいてん)祠《割書:門前(もんせん)左(ひたり)の方(かた)の池(いけ)の中島(なかしま)にあり縁起(えんき)に所謂(いはゆる)福満童子(ふくまんとうし)を|脊負(せおふ)て渉(わた)せし霊亀(れいき)をして後(のち)に満功(まんかう)上人 弁天(へんへん)【ママ】に崇(あかめ)られたりと云》