翻刻
竟(つひ)に隷書(てん[れいヵ]しよ)の形(かたち)に帰(き)し。再(ふたゝ)び真行草(しんぎやうさう)の三体(さんてい)に
移(うつ)る世(よ)の有様(ありさま)に随(したが)ひて。変革(へんかく)する事(こと)此(かく)の如(ごと)し
画(ゑ)も亦(また)然(しか)り其初(そのはじめ)は。亀卜(きぼく)によりて形(かたち)を成(な)し。終(つひ)
に山水(さんすゐ)に丹青(たんせい)して水(みづ)を治(をさ)め。万像(まんぞう)を写(うつ)して
不易(ふえき)の規模(きぼ)をあらはす。則(すなは)ち書(しよ)と画(ゑ)とは車(くるま)
の両輪(りやうわ)あるが如(ごと)く。須臾(しばらく)も離(はな)るべからざる
ものなり。心(こゝろ)動(うご)いて言語(ことば)を発(はつ)し。言語(ことば)は文字(もじ)に
形(かたち)を成(な)す。書(しよ)亦(また)変(へん)じて画(ゑ)にあらはれ。千代(ちよ)に八千(やよ[ちヵ])
代(よ)に礫石(さゞれいし)の。巌(いはほ)となりて苔(こけ)むすまで。日(ひ)の行(ゆく)駒(こま)に
片時(へんし)もはなれず。士農工商(しのうこうしやう)日用(にちよう)の。言葉(ことば)の文字(もじ)に
形(かたち)を画(ゑが)き。令児愛娘(おこさんがた)の早解(はやわかり)。一寸(ちよつと)画工(ぐわこう)の手(て)を仮(かり)て
商売往来絵字引(しやうばいわうらいゑじびき)成(な)る
又玄斎南可識