翻刻
【右丁】
王子権現(わうしこんけん)社 飛鳥山(あすかやま)の北(きた)の方音無河(をとなしかは)を隔(へたて)てあり
本殿(ほんてん) 祭神(さいしん) 伊弉冊尊(いさなみのみこと)《割書:左(ひたり) 速玉男命(はやたまのおのみこと)
右(みき) 事解男命(ことさかのおのみこと)》 三神鎮座(さんしんちんさ)
社記(しやきに)曰(いはく)若一王子社(にやくいちわうしのやしろ)は紀伊国(きいのくに)熊野権現(くまのこんけん)を勧請(かんしやう)す後醍醐天皇(こたいこてんわう)の御𡧃
元亨(けんこう)年中豊島(としま)何かしの主(ぬし)とかや新(あらた)に祠𡧃(しう)を建(たて)て祟(あかめ)けるか風霜(ふうそう)
ふり歳月(としつき)深(ふかふ)して朝(あした)の霧(きり)は香(かう)を焚(たく)かとあやしみ夜(よる)の月(つき)は燈(ともしひ)を
挑(かゝくる)に似(に)たり霊神(れいしん)は人の敬(うやまふ)によりて其威(そのい)をまし境致(けいち)は霊神(れいしん)の徳(とく)
によりて其名(そのな)を顕(あらは)すつら〳〵此神の本(もと)を尋(たつね)れは伊弉諾(いさなき)伊弉冊(いさなみ)
の尊(みこと)と申(まう)す二柱(ふたはしら)のみこと国土(くにつち)をうみ萬(よろつ)の物(もの)をうめり其(その)広大(くはうたい)の功(く)
徳(とく)既(すて)に成(なり)て後(のち)伊弉冊尊(いさなみのもこと)神退(かんさり)ましけれは紀州(きしう)熊野(くまの)の有馬村(ありまむら)
におさめまつる熊野大神(くまのゝおほむかみ)是なり此神を祭(まつ)るには春は花をもて
祭り鼓(つゝみ)うち笛吹(ふえふき)旗立(はたたて)て諷舞(うたひまふ)て祭る白河院(しらかはのゐん)の御製(きよせい)に咲匂(さきにほ)ふ
花のけしきを見るからに神の心そくにしらるゝとよみ給へるは
花(はな)しつめの事(こと)なるへし此神(このかみ)の御子(おんこ)を熊野早玉男(くまのはやたまのお)とまうす其(その)第二(たいに)
【左丁 絵図 一字一行書は縦書きに改めた】
王子権現社(わうしこんけんのやしろ)
あすか山 金輪寺