翻刻
【右頁】
諸/症(しよう)を醸出(じようしゆつ、カモシイダス)して非命(ひめい)の死を致す事恐(おそ)るべしなり家(か)大人
深く是を憂(うれひ)予も亦/坐視(ざし、ヰナカラミル)するに忍(しのび)ず其害あるを知て黙(もく)して云(いわ)ざる
は尺位(しい)の誚(そしり)を免れず依(より)て今其/大□(たいがい)を畧(りやく)書して俗(ぞく)の惑(まとひ)を觧(と)き
世の夭札(ようさつ、ワカジニ)を救(すくわ)んことを庻幾(こいねが)ふ且古来より稀(き)痘の方(ほう)多くありといへ
其皆/觧(げ)毒の薬にして徒(いたづら)に児の脾胃(ひい)を損(そん)するのみにして更(さら)に其
効(こう)なきを以て世の人用るもの亦/稀(まれ)なり然(しか)るを牛(きう)痘の如きは稀痘(きとう)
の諸方に比(ひ、タラブル)すれば其害尤正しといへ其世人/偏(ひとへ)に妖言(ようげん)に惑溺(わくでき、マドハサレ)して
殆(ほとん)ど狐狸(こり、キツネタヌキ)に誑(たふらかさ)るゝが如きは長嘆息(ちようたんそく)をなすべきなり凡痘を軽(かろ)くせんと
ならば常に隧道(すいどう、チノミチスヂ)に壅塞(ようそく、トゞコウリ)なからしめ飲食(いんしよく、ノミクヒ)を慎み寒暖(かんだん、サムサアタゝカサ)を節(せつ、ホドヨク)にして
敢(あへ)て温覆(うんふく、アタゝメオホウ)せしめず発生(はつせい)の□(いゆう)気を閉塞(ひそく、トヂフサグ)せしむる事勿(なか)るべし
【左頁】
世の人多く姑息(こそく)の愛(あい)にして偏(ひとへ)に温覆(うんふく)して常に微汗(ひかん、スコシアセ)を取(とる)に至る小
児は純□(じゆんいやう)のものなり清涼(せいりよう、スゞシ)なたれば病なし寒暑(かんしよ)にも馴(なれ)しめされば表(ひよう)
気/実(じつ)せず試(こゝろみ)に貧賎(ひんせん、マヅシキ)の児(じ)を見よ必無病(かならずむびよう)なり児を育(やしな)ふもの深くこの
理(り)を察(さつ)して是を平素(へいそ、ツネ)に慎(つゝし)みて姑息(こそく)の愛にひかるゝ事なかる
べし
文久紀元三月
下谷成通東山本町代地片町
醫官 本道痘疹科 池田鍋仙誌