翻刻
【挿絵】
張旭(ちやうきよく)
焦遂(せうすゐ)
当時(たうじ)友(とも)とするすぐれた者(もの)はみな酒(さけ)のみ相手(あいて)凡骨(ぼんこつ)ならぬゆへ仙(せん)の字(じ)を加(くわへ)た大酒(たいしゆ)のみの無(ぶ)
性(しやう)ものと云て実(じつ)はほめて云 世(よ)を非(ひ)に見てゐるやからだうらくものといはるゝ本意(ほんい)じや各(おの〳〵)をなぶる
やうに云がそれを風流(ふうりう)にして悦(よろこ)ぶしや賀知章(かちしやう)は呉国(ごこく)の生(うま)れ水国(すゐこく)の人ゆへ馬(うま)に乗(のり)て尻(しり)がすはらず船(ふね)に
乗(のつ)たやうないつも酒(さけ)を過(すご)しゐるゆへぶら〳〵してあぶない眼花(がんくわ)は酒(さけ)に酔(ゑひ)目(め)がちらついて井戸(ゐど)へ落(おち)て
やつはり眠(ねむつ)てゐた是(これ)は実事(じつじ)也 汝陽王(じよやうわう)名(な)は璡(しん)と云 諸侯王(しよこうわう)は酒を三斗ばかり飲(のん)で其(その)機(き)
げんで参内(さんだい)しやうと朝(あさ)より出(いづ)る其道(そのみち)酒(さけ)の車(くるま)を見ては装束(しやうぞく)してゐながら飲(のみ)たがつて涎(よだれ)をながした
前漢(ぜんかん)の郭弘(くわくかう)が酒(さけ)を好(この)んで官(くわん)に封(ほう)ぜらるゝなら酒泉郡(しゆせんぐん)に封(ほう)ぜられたい酒(さけ)さへあれば外の
望(のぞみ)はないと云た我(われ)も其ごとく思(おも)へど自由(じゆう)にならぬは残念(ざんねん)じや左相(さしやう)は李適子(りせきし)ぢや金持(かねもち)ゆへ
ふと酒盛(さかもり)を始(はじめ)ると日の内(うち)に万銭(ばんせん)を費(ついや)すを何とも思(おも)ぬ大酒(おほざけ)を飲(のむ)こと長鯨(おほくじら)の百川(ひやくせん)を吸(すひ)
こむやうじやつねに云はすみ酒(さけ)がすきでにごり酒(さけ)はいやと云てゐる此 句(く)は李適子(りせきし)詩(し)にある聖(せい)
とはすみ酒(ざけ)のこと賢(けん)とは濁(にご)り酒(さけ)を云 是(これ)は魏(ぎ)の時(とき)殿中(でんちう)酒禁制(さけきんぜい)であつたによつて時(とき)の官人(くわんにん)
の云た詞(ことば)じや崔宗之(さいそうし)は洗(あら)ひ上たやうな美少年(びせうねん)で杯(はい)をあげ白眼(はくがん)にしてふり仰(あをむい)て世(せ)