翻刻
【右丁】
近年 異国(いこく)より来る処々(しよ〳〵)に栽(う)ゆ誤(あやまつ)てこれをはたんけうまた
あめんどうとも云 枝葉(ゑたは)李(り)と同(おなし)く実大にして形桃に似(に)て尖(とか)りあ
りて《振り仮名:心臓|しんき【さ】う》の形(かたち)をなす大(おゝき)さ一振(ひとにき)り【注①】許(はか)り熟(しゆく)すれは黄色にして
紅色を帯(お)ふ味(あしは)ひ他(た)の李(り)に勝(すくれ)たり甚(はなはた)甜(あま)くして美(ひ)なり肉 厚(あつ)
く《振り仮名:核|■■》【注②】甚た小なり集解に説処(とくところ)の諸李(しより)《振り仮名:詳|つまひ【「らか」脱ヵ】》ならす
徐李(ちより)《割書:附|録》 詳(つまひらか)ならす
杏(きやう) からもゝ《割書:和名|鈔》 あんず《割書:唐韻李|子の転》 アブリユス《割書:荷蘭|蛮語箋》
紅玉(こうきよく)《割書:名物|方言》 黄吉(わうきつ)《割書:本草和名|引兼名苑》 蓬莱杏(ほうらいきやう)《割書:同|上》
【左丁】
阿舎你矩《割書:梵|語》 杏樹《割書:救荒|本草》
樹(しゆ)は梅(むめ)に似(に)て枝(ゑた)肥(こへ)て粗(あら)く紅色也 葉(は)はぶんこむめに似(に)たり
二月花を開く五弁水紅色 丁梅(よほろはい)の如(こと)く後実を《振り仮名:結ふ|むすふ》形亦
梅に似て大なり其大にして黄赤色にして味ひ甘きものを
もちあんすといふ是 時珍説(しちんせつ)の金杏なりあんすと梅(むめ)とは
混(こん)し安(やす)く分別(ふんへつ)なしかたしあんすも花に 単弁(たんへん)重弁(てうへん)千葉(せんやう)
等(とう)あり唯(たゝ)あんすは枝 粗(そ)にして長(なか)く葉円し実の味ひ甘く
して果(くは)となす核(かく)と肉(にく)と離(はな)れ核(かく)に皺(しは)ありて桃(もゝ)に似(に)たり
むめは小木(せうほく)には細枝 多(おゝ)く剌(とけ)【刺ヵ】の如(こと)し実熟くして味ひ酸(す)し
核(かく)と肉(にく)と離(はな)れす核(かく)に皺(しは)なし此を以て分別(ふんへつ)すへし
【注① 「振」は「握」ヵ。公文書国立公文書館デジタルアーカイブでは「握」(『本草図譜巻之61・62』コマ8 https://www.digital.archives.go.jp/img/4676196)。】
【注② ルビは「たね」ヵ「さね」ヵ。二字目は「ゆ」に見える。他の「核」のルビは「かく」。】
【二行十三字目「ゆ」は書き直している】
【四行三字目~「心臓」のルビ「う」は書き直しているように見える】
【十一行六字目~「あんず」の割書「韻」は公文書国立公文書館デジタルアーカイブ(注①と同)で確認】