翻刻
上に生じたる地震(ぢしん)に比すれば震力極(しんりょくきわ)めて微弱にして敢て怪(あやし)むに足らざれども其震力の感(かん)
及(きう)したる區域(くえき)は極めて廣濶にして日本々州を横斷(わうだん)して新潟及其附近の日本|海岸(かいがん)に迄|波及(はきう)
したり既に新潟及其附近|沿岸(えんがん)に於て震力(しんりよく)ありしを認(みと)むる以上は尙日本海の東部(とうぶ)に迄感及
したること想像(さう〴〵)し得べきなり、斯の如く震動(しんどう)區域の廣濶(くぁうくわつ)なる點より推測(すいそく)するときは地震
の原因(げんゐん)は火山の噴裂(ふんれつ)に歸せんより寧(むしろ)|地盤(ぢばん)の陥落(かんらく)にありと認(みとむ)る方|妥當(だたう)なるが如しと然るに
海嘯の性質 は如何(いかん)、凡そ海嘯(かいせう)には暴風に據て起(おこ)るものと地震(ぢしん)に據て起るものとの二
種あり、其暴風(ばうふう)に據て生するものは海嘯(つなみ)稍や小弱いにして地震(ぢしん)の爲めに生ずるものは稍(や)や
强大(けうだい)なり、昨日迄に到着せし電報(でんぽう)に據るときは海嘯(つなみ)は北海道の東北|海岸(かいがん)より本州福嶋縣
の沿岸(えんがん)一|帯(たい)の地を洗(あら)ひたるものヽ如し、若し其|割合(わりあひ)を以て推(お)すときは福嶋|以西(いせい)又は十勝
以北の海岸(かいがん)は幸に海嘯の襲撃(しうげき)を免れたりとするも其沿岸(えんがん)に在ては尙海嘯を認(みと)めたること
明ならん、果(はた)たして然らば今回の海嘯(かいせう)は其|區域(くえき)頗る廣濶にして其|程度(ていど)も亦强大なりしなる
べく隨て風力(ふうりよく)に依て生(しやう)じたるものにあらざるを知るなり
海嘯の區域 は如何、今日に在て之を推定(すいてい)すること極(きわ)めて難事に属すと雖も日本に於
て感(かん)じたる地震(ぢしん)の震動力|頗(すこぶ)る微弱(びじゃく)なりしにも係はらず海嘯(かいせう)の押寄(おしよ)せたる區域頗る長大(てうだい)な
る點(てん)より推すときは海嘯の起動地は日本を距ること頗る遠き太平洋中にあるへく若し其
起動地にして太平洋の中心以北にありとせば海嘯はハワイの沿岸を洗去り更に東北に進
みて北米の西海岸を襲撃したるやも計り難しと云ふ
●本吉郡の被害員數
海嘯(つなみ)にての死者總員數は男女を合せて三千五百三十一人負傷七百八十人流失及潰家は千
百九十五戸馬死亡百八十頭なりと云ふ(六月廿三日調)
●十三濱の惨狀
宮城縣本吉郡十三濱は北上川の支流(しりう)(追波川)の河口(かこう)より起(おこ)つて志津川驛に至(いた)るまで半
嶋を爲(な)せる岬角(かうかく)の沿岸(えんがん)大的七八里の間にして遂波、月、吉、白濱、小室、大室、相川
其(そ)の他(た)を合(あは)せて十三ケ村の總稱(そうせう)にして何れも大抵は半漁半農(はんぎうはんのう)の村落、戸數六百五十六人
口二千五百三十一人の處今回の被害(ひがい)に據つて三百○八戸を流失し死者二百○六名を作り
内八十二名の死体は今日まてに發見し重傷八人輕傷六十六人潰家五十七戸と作りて本吉
現代語訳
上記の地震に比べると震力は極めて微弱で、特に怪しむに足りないものであったが、その震力が及んだ区域は極めて広大で、日本本州を横断して新潟およびその付近の日本海岸にまで波及した。すでに新潟およびその付近沿岸において震力があったことを認める以上は、さらに日本海の東部にまで感及したことを想像し得るであろう。このように震動区域が広大である点から推測するときは、地震の原因は火山の噴裂によるものというよりは、むしろ地盤の陥落にあると認める方が妥当であるようである。
海嘯の性質はいかなるものか。おおよそ海嘯には暴風によって起こるものと地震によって起こるものとの二種がある。その暴風によって生じるものは津波がやや小弱く、地震のために生じるものはやや強大である。昨日までに到着した電報によると、海嘯は北海道の東北海岸から本州福島県の沿岸一帯の地を洗ったもののようである。もしその割合をもって推すときは、福島以西または十勝以北の海岸は幸いに海嘯の襲撃を免れたとしても、その沿岸においてはなお海嘯を認めたことは明らかであろう。果たしてそうであれば、今回の海嘯はその区域がかなり広大で、その程度もまた強大であったに違いなく、したがって風力によって生じたものではないことを知るのである。
海嘯の区域はいかなるものか。今日においてこれを推定することは極めて困難なことに属するとはいえ、日本において感じた地震の震動力がかなり微弱であったにもかかわらず、海嘯の押し寄せた区域がかなり長大である点から推すときは、海嘯の起動地は日本から相当遠い太平洋中にあるべきで、もしその起動地が太平洋の中心以北にあるとすれば、海嘯はハワイの沿岸を洗い去り、さらに東北に進んで北米の西海岸を襲撃したかもしれないということである。
●本吉郡の被害者数
海嘯による死者総員数は男女を合わせて三千五百三十一人、負傷七百八十人、流失および潰家は千百九十五戸、馬の死亡百八十頭であるという(六月二十三日調べ)。
●十三浜の惨状
宮城県本吉郡十三浜は北上川の支流(追波川)の河口から起こって志津川駅に至るまで半島をなす岬角の沿岸、大体七八里の間で、追波、月、吉、白浜、小室、大室、相川その他を合わせて十三ケ村の総称である。いずれも大抵は半漁半農の村落で、戸数六百五十六、人口二千五百三十一人の所、今回の被害によって三百○八戸を流失し、死者二百○六名を出し、うち八十二名の死体は今日までに発見され、重傷八人、軽傷六十六人、潰家五十七戸となって本吉...
英語訳
Compared to the earthquake mentioned above, the seismic force was extremely weak and not particularly alarming. However, the area affected by this seismic force was extremely vast, crossing the Japanese mainland and reaching as far as Niigata and the nearby Japan Sea coast. Given that seismic activity was confirmed in Niigata and its surrounding coastal areas, it can be imagined that the effects extended even to the eastern part of the Japan Sea. Judging from the extensive nature of the震動 zone, it seems more appropriate to attribute the cause of the earthquake to ground subsidence rather than volcanic eruption.
What is the nature of tsunami? Generally, there are two types of tsunami: those caused by storms and those caused by earthquakes. Those generated by storms are relatively small and weak, while those generated by earthquakes are relatively strong and powerful. According to telegrams received by yesterday, the tsunami appears to have washed over the area from the northeastern coast of Hokkaido to the coastal belt of Fukushima Prefecture on Honshu. If we judge by this proportion, even if the coasts west of Fukushima or north of Tokachi fortunately escaped the tsunami attack, it is clear that tsunami were still observed along those coastlines. If this is indeed the case, this tsunami covered a considerably vast area and was also quite powerful in magnitude, thus confirming that it was not generated by wind force.
What was the extent of the tsunami area? While it is extremely difficult to estimate this today, considering that the seismic vibration felt in Japan was quite weak, yet the area struck by the tsunami was quite extensive, the source of the tsunami must be located far out in the Pacific Ocean, distant from Japan. If the source location was north of the center of the Pacific, the tsunami may have washed over the Hawaiian coast and proceeded further northeast to attack the western coast of North America.
●Casualty Numbers in Motoyoshi District
The total number of deaths from the tsunami was 3,531 people (men and women combined), 780 injured, 1,195 houses destroyed or swept away, and 180 horses died (surveyed on June 23rd).
●The Tragic Situation at Jusanhama
Jusanhama in Motoyoshi District, Miyagi Prefecture, is a collective name for thirteen villages including Oikawa, Tsuki, Yoshi, Shirahama, Komuro, Omuro, Aikawa and others, stretching along the coastline of a peninsula from the mouth of a tributary of the Kitakami River (Oikawa River) to Shizugawa Station, covering approximately 7-8 ri. These were mostly semi-fishing, semi-farming villages with 656 households and a population of 2,531 people. Due to this disaster, 308 houses were swept away, 206 people died (of which 82 bodies have been found to date), 8 people were seriously injured, 66 lightly injured, and 57 houses were destroyed, making Motoyoshi...