翻刻
【右頁】
下水(げすい)などに投(すつ)れば其病毒(そのどく)は既(すで)に消滅(きひうせ)たりと誤認(あやまり)て早晩其水(いつかそのみづ)に混(まじり)て伝播(ふゑ)又は地中(ちのうち)
に侵入井泉(しみいりいどみづ)に透鼠(とけこみ)て病毒(やまひ)の傳染(うつ)ることを知(しら)ざる者多(ものおゝ)し人々善(ひと〳〵よ)く心得置豫(こゝろへおきあらか)じめ消毒(どくけし)
藥(くすり)を買求(かひもと)め吐瀉物(はきくだしもの)を受(うく)る器(うつわ)には此藥(このくすり)を容(い)れ置既(おきすで)に使用(つかひ)し後(のち)は直(すぐ)に戸外(そと)に持出(もちいだ)
し洗浄(あらひ)て其後(そのあと)に又第一/石炭酸水(せきたんさんすい)を入置(いれおく)べし
偖此吐瀉物並(さてこのはきくだしものならび)に其器(そのうつわ)を洗浄(あらひ)し水(みづ)は決(けつ)して他人(おかのもの)の通(かよ)ふ糞壺(せついん)に混(まず)へからず悉(こと〳〵)く
取分(とわけ)て住家及よ(すみかおよ)び井戸(いど)を離(はな)るゝこと七間斗(しちけんはか)りの所(ところ)に置(おき)て地(ち)を深(ふか)く堀(ほ)り埋(うづ)め或(あるひ)は焼捨(やきすつ)
るを殊(こと)に良(よし)とす
吐瀉物焼捨法(はきくだしものすてかた)は淺(あさ)く地(ち)を堀(ほ)り底(そこ)に乾(かわ)きたるわら又は削屑(かんなくづ)を敷(し)き排泄物(はきくだしもの)を其上(そのうへ)
に捨(すて)又其上にわらを覆(おほ)ひ石炭油(せきたんゆ)を濯(そゝ)ぎて火(ひ)を點(もや)し上下攪反(うへしたかきかへ)して十分に焼(や)き盡(つく)す
べし
〇虎列刺(これら)病にて斃(たお)たる者(もの)は成丈速(なるたけすみや)かに片附(かたづ)け十分に第一/消毒(どくけし)藥水をひたしたる
木綿衣(きもの)に包(つゝ)み地(ち)を深(ふか)く堀(ほ)り埋葬(うづむ)へし火葬(くわそう)を尤もよろしとす
【左頁】
〇コレラ病者或は其/死屍(しがい)に觸(ふれ)たる人の衣服(きもの)はたとへ如何様(いかよう)なるとも皆毒氣(みなどく)にけ
がれし物と見做(になし)て速(すみやか)に脱換(ぬぎかへ)第二/消毒藥水(どくけし)にひたし後石鹸(のちさぼん)にて洗濯(あらい)べし
〇コレラ病者の寝室並(ねやならび)に死屍(しがい)を置(お)ける部屋(へや)は石炭酸を皿(さら)にもり微火(ぬるび)に上(の)せ其臭(そのにほひ)
を十分に蒸薫(かほら)して満室(まうち)にころらすべし
〇病者/全快(ぜんくわい)し或は埋葬(とりおき)の後(のち)は先(ま)づ室中(ねや)にある所の金銀器具(かなものうつわ)並に彩色物(いろもの)等/取除(とりの)け
[此/品類(しなもの)は別に相當(さうとう)の消毒法(どくけしほふ)を行(おこな)ふ]窓戸(まど)を密閉火鉢(ふさぎひばち)に火を入れ其上に硫黄(いおう)を置(おき)
入口(いりぐち)を閉(と)ぢ七時間斗り薫蒸(かほら)せ後窓戸(のちまど)を開(ひら)き室内(まうち)の諸物(どうぐ)を外(そと)に持出(もちだし)たゝき拂(はらふ)べし
天井柱建具(てんじよふはしらたてぐ)等のものは第二消毒藥水にてよく洗(あら)ひ空氣(かぜ)にさらずべし畳(たゝみ)は一(ゐ)
層注意(ほこゝろづく)べし
〇コレラ病者ありし室内(へや)の器具縦令(うつわものたとへ)は衣服夜具膳椀(きものやぐぜんわん)等は精密注意法(よく〳〵きをつけかた)のごとく
第二石炭酸水にひたし石鹸(さぼん)水にて洗ひ或は硫黄氣(いおうき)を炊(たき)こむなど怠(おこた)るべからず諸
道具は取換(とりかゑ)の出來(できる)なれど性命(いのち)には取りかへなければ可成(なるべく)は惜(をし)まず焼捨(やきすつ)べし