翻刻
【右丁】
菜(な)は余(あま)り圧(おし)がつよすぎれば葉(は)の色(いろ)赤(あか)くなる物(もの)なり
京(きやう)糸菜漬(いとなづけ)
関東(くわんとう)には少(すくな)けれど近来(ちかごろ)京の水菜(みづな)の種(たね)を植(うへ)て所々に
あり一株(ひとかぶ)にて百茎(ひやくくき)余(あま)りありかぶの根(ね)を切(きり)庖丁目(はうちやうめ)を
多(おほ)くいれて土(つち)を洗(あら)ひ甘塩(あましほ)にてつけるがよし水あがり
てもあくといふもの少(すこし)もなし上品(じやうひん)なる物(もの)なり奈良漬(ならづけ)
味噌漬(みそづけ)の香(かう)の物(もの)に附(つけ)合(あわ)す
糠味噌漬(ぬかみそづけ) 《割書:又/酴醿漬(どぶづけ)ともいふ》
万家(ばんか)ぬかみそ漬(づけ)のあらざる所(ところ)もなけれど世俗(せぞく)には取遣(とりやり)
【左丁】
せぬ物のやうにいひならはせしかどとるにも足(たら)ぬ事共
なり又/新(あらた)には急(きう)に出来(でき)がたき物のやうに思(おも)ふやからも
あれば心得(こゝろえ)の為(ため)に爰(こゝ)にしるす糠(ぬか)一斗/塩(しほ)五升 右/糠(ぬか)の
小米(こごめ)をよくふるひ取(とり)て塩(しほ)五升に水(みづ)五升を鍋(なべ)にて煮(に)かへし
《割書:寒(かん)の水なれば|ひとしほよし》一/夜(や)さまし置(おき)糠(ぬか)にまぜて桶(おけ)へつけるなり
《割書:せうゆ樽ならば此 分量(ぶんりやう)|にて見はからひあるべし》あらたに拵(こしらへ)たる当座(とうざ)には毎日(まいにち)たび〳〵
手を入れて掻(かき)廻(まわ)すへし故(ふる)き沢庵(たくあん)大根を四五本/糠(ぬか)の
まゝいれ生(なま)大根又/茎(くき)でも時(とき)の有合(ありあい)もの茄子(なすび)瓜(うり)のたぐひ
何(なに)にかぎらず漬(つけ)るたびごとに塩(しほ)すこしづゝ入てかきまわすこと