翻刻
【右丁】
さてきたのかた【北の方=貴人の妻の敬称】におほせられけるさ大しんこそ中
將をこはれつれとの給へはきたのかたさやうに
こはるゝ事はうれしけれともこのほときよみつ
より人をかたらひて候をはいかゝはからひ給ふへき
とおほせけれは大しん殿の給ふたれもわかくて
はおもひをし侍るなりわれらもむかしはおもふ
中をはなれしなりはしめはさこそおもへとも
ほとへぬれはわするゝならひなりわかひめきみの
女御まうての時も大しんたちそひてもてなさん
にたれかかたをならふへき中将殿世になき物より
も大将殿にちかつきたらんはめやすきさま【見苦しくない、感じがよい様子】なる
【左丁】
へしこれにある物をははなれたりともゆめ〳〵
うらみ有ましとの給へはきたのかたもさも有なん
とおほして中将殿をよひたてまつる中将かくとも
しらすしてやかておはしけるにちゝはゝおほせ
ありけるは御へんを大将こはるゝなりこのころ世
にもましまさぬ人をくしておはすもめさまし
くおほしてあはれいかなる人もめやすきさま
ならはいかはかりうれしからんとおもひしところに
大将のかやうにけいやく【契約…約束】あるこそうれしく侍れと
の給へはやゝひさしくありておほせらるゝやう
おさなきときこそおやの御はからひにてかへせひ