翻刻
凡(およそ)/方位(はうゐ)を/示(しめ)すには/前位(せんゐ)に/循(したか)ふて/某(それかし)の/東西南北(とうさいなんほく)に/在(あ)りと/標(しる)す
又(また)/左右(さいう)とあるはその地(ち)/至(いた)らむとする/儔(ともから)の/左右(さいう)を云/覧(み)るもの
これを推(おし)て標準(ひやうしゆん)とせよ
凡(およそ)/引用(いんやう)の書(しよ)/全文(せんもん)を/載(の)せすしてその/綱要(かうやう)のみを撮(とり)て/主意(しゆゐ)を
摘(てき)するものは紙負(かみかす)/増多(あまた)にして/覧(み)るもの厭倦(ゑんけん)の心(こゝろ)を生(しやう)せんことを
恐(おそ)るゝか故(ゆへ)なり次(つき)に/神社仏刹(しんしやふつせつ)に伝(つた)ふる所(ところ)の仏像(ふつさう)/宝塔(ほふたう)/書画(しよくわ)
諸(しよ)/什器(しうき)の類(たくひ)/神奇(しんき)/附会(ふくわい)に渉(わた)りて真贋(しんかん)/決(けつ)すへからさるは社司(しやし)
寺僧(しそう)の言(い)ひ伝(つた)ふる所(ところ)に任(まか)せて記(しる)す又/武蔵(むさし)/風土記(ふとき)の/残編(さんへん)は
偽書(きしよ)なりと雖(いへとも)/古来(こらい)より世(よ)に伝(つた)へたる書(しよ)なれは姑(しはら)く是を引(ひ)き
用(もち)ゆその取捨(しゆしや)に至(いた)りては覧(み)る人の意(こゝろ)に在(あ)るのみ
凡(およそ)/神社(しんしや)/仏閣(ふつかく)の幅員(ふくゐん)/方域(はういき)を図(つ)するは専(もつ)はら当今(たうこん)の形勢(かたち)を
模写(うつ)す且(かつ)/地図(ちつ)の間に四時(しいし)/遊観(いうくわん)の形勢(ありさま)を絵(ゑか)くに其/態度(たいと)
風俗(ふうそく)/服飾(ふくしよく)/容儀(ようき)これ亦(また)/当今(たうこん)の形勢(かたち)を図(つ)す旧地(きうち)に基(もとつひ)て画(くわ)する
ものは各(おの〳〵)/時(とき)を分(わか)てり是(これ)/其地(そのち)の風光(ふうくわう)を潤色(しゆんしよく)して他邦(たはう)の人(ひと)をして
東都(とうと)/盛大(せいたい)の繁栄(はんゑい)なる事を知(し)らしめ且(かつ)/童蒙(とうまう)の観覧(くわんらん)に倦(う)む事
なからしめんか為(た)めなり
凡(およそ)/此地(このち)/名所(めいしよ)の中(うち)/武蔵野(むさしの)/隅田川(すみたかは)/二所(にしよ)を以て第一(たいいち)の勝概(しようかい)とす故(ゆえ)に
隅田川(すみたかは)をは両岸(りやうかん)に分(わか)ちて六七の二巻に配(はゐ)せり西岸(せいかん)には芙蓉(ふよう)の白峰(はくほう)
雲間(うんかん)に聳(そひ)へ/東岸(とうかん)には筑波(つくは)の翠鬘(すゐくわん)/晩露(はんろ)に蘸(ひた)して/山水(さんすゐ)の風致(ふうち)/備(そは)はり
縦観(しうくわん)の美(ひ)/此地(このち)に停(とゝ)まるか依(よつ)て/両岸(りやうかん)の全勢(せんせい)を眸中(はうちゆう)に収(おさめ)んと/欲(ほつ)せは
此(この)/両巻(りやうくわん)を対照(たいしやう)して/其(その)/全局(せんきよく)を知(し)るへし
凡(およそ)/真間(まゝ)の旧跡(きうせき)は下総(しもふさ)の地(ち)にして武蔵(むさし)にあらすといへとも纔(わつ)かに
利根川(とねかは)を隔(へた)つるのみにして実(しつ)に万葉集(まんえうしふ)/以降(このかた)の芳蹟(はうせき)なり且(かつ)
文人(ふんしん)/墨客(ほくかく)/吟筐(きんきやう)を負(お)ひて游筇いうきう)を曳(ひ)くものは必(かならす)其/風光(ふうくわう)を賞(しやう)して
第一の壮観(さうくわん)とすこゝに於(おひ)て鎌倉志(かまくらし)の/例(れい)に倣(なら)ひて併(あわ)せ記(しる)して
此記(このき)の内(うち)に収(おさ)む覧(み)るものこれを諒(さつ)せよ