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明治十四年十一月十五日ヨリ
世界(せかい)転覆(ひつくりかへる)噺(はなし)
四百年前「イタリヤ」国の人 何某(なにがし)推測(すゐそく)
せしに紀元(きげん)千八百八十一年十一月十五日 即(すな)はち
我明治十四年十一月十五日より日数十五日の
間だに天地 潰(つぶ)れ山岳(さんがく)破裂(はれつ)して大火山を現(げん)
出(しゆつ)し海水(かいすゐ)あぶれ洪水(こうすゐ)となり人間(にんげん)をはじめ禽(きん)
獣(じう)草木(さうもく)魚(ぎよ)虫(ちう)斃死(へいし)と云(いへ)へり其(その)日割(ひわり)左(さ)に
十五日 川々へ水の入る事
十六日 大 洪水(こうすゐ)
十七日 大つなみ
十八日 川の魚(うを)こと/\死(し)す
十九日 海の魚皆し死す
二十日 鳥るゐ残(のこら)ず死(しヽ)落(おつ)る【この行は全体的に自信がありません】
廿一日 大風(たいふう)家(いへ)蔵(くら)を倒(たふ)す
廿二日 巌石(がんせき)八方へちる
廿三日 大地しん
廿四日 山谷 鳴動(めいどう)す
廿五日 悪(あし)き空気(くうき)の為に人間 唖(おし)聾(つんぼ)となる
廿六日 地上 破裂(はれつ)して人家 地底(ちのそこ)に落(つ)る【この行は半分ページが断ち切られているため類推です】
廿七日 星(ほし)雨の如く落ち下る
廿八日 世界(せかい)の男女みな死んて仕舞ふ
廿九日 燃え出る噴煙(ふんゑん)の為に万物 溶解(ようかい)す
前に述(のぶ)る処は其日/\の原況(ありさま)を想像(さう/\)して記(しる)せし物に
然(しか)れ共 固(もと)より信(しん)を置(おく)に足(た)らず「リンコオンシヤー」の□ぎ
此変動を恐(おそ)れ身を空中(くうちう)に置(おく)と□(いへど)も空気(くうき)の通(かよ)ふ所
震動するは自然(しぜん)の理(り)にして奇人(きじん)の苦心(くしん)画餅(ぐわべい)に属(そく)せんと
するを恐(おそ)るヽなり以上は伝聞(でんぶん)の儘(まゝ)記(しる)すといへとも取るに
足(た)らざる忘説(まうせつ)なり人ゝ安心して業(がふ)につきぬへと云
御 明治十四年
届 十月 三日
画工編集兼出版人
弓町二番地
松井栄吉
価 五銭