翻刻
せつ生をみる。某あいはてばいしゆは残るまじや。両人悦ひ何か扨【なにかさて=何はともあれ】御くび給はるうえに別にいこんの□【汚れ・かすれ】
へきとあれは。おきな成ほどくびをゑさせんが両人にはかなはす。是成もくのぜうにとらする。我くび
をもちさんだいせは。ちう【忠】の物とて召かゝへ給はん。是しゆつせのねかいかなふ也。いさかた〳〵に【いざ、方々に】我身のうへ
ざんけして聞せん。もとは此くにの者にてふうふ共にむつましくくらせ共。ひん成るゆへ何とぞ天子のくらい
に生れ。よをらく〳〵とくらさん。もし生れきたらは其方を一のきさきとせん其やくそくのかたみとてたがい
小ゆびを切取かはし。せんじゆつのぎやうをつとめて。ねがいをかなゑんと。某は此山に有。つませんだい女には
かづらき山に有が。千年のぐわん【願】みですあいはてん事しるまじ。四百年此かたあいじやく【愛着】の道を切しに。
今思ひ出して有とむかしをかたり。我とかまにてくびを切。もくの丞にあたへ給へは。かづさ大しま悦びもく
のせうを共ない大り【内裏】をさしてぞ帰りける。事すぎ中宮くわてうのまへ【花鳥の前】くはいたいならせ御太子御たんじやう有。
月日かさなり太子六才に成給ひ。御な【御名】を金玉丸と名付給へども。せいたかく色くろく。まなこのひかりすさま
じく。手にあまりたるあくとうゆへくわんばくかねみちみかどへそうもん申。ごくやをしつらい入置給ふ。有時たいご天
王御ゑいかんのあまり。せいりやう天にてくわんげんをそうしなぐさまんとせんしある。中宮つほねよき折
からと。太子のごくやそうもんあれ共かなはず。くわんばくかねみち御とも申。すでに御てんにいらせ給へば
中宮女中の御なげき。みな〳〵御れん【御簾】に入給ふ。然る所へいどほり弥介兄弟。御天に来たりあん内あれはつぼね
立出たいめん有。いどほり弥介とは其方か。あれにみへし玉の井此ほどこゝへほり給ふ。かわをいれよ【?】兄□【兄弟ヵ】
【左ページ】
こしらへをする所へ。さぬきのつぼね立出やい下々爰へこよとよび給へは。弟こんの介何の御やうと御そ
ばちかくよれは。さぬき其ほうは弥介がためには何ものぞ。わたくしはあの弥介の弟ぶんてござります。
いやべつの事でもないあの男には女ばうがあるが。いゝゑ。はづかしながらおれは弥介にほれた中たちをして
たも。ごんの介がをゝり【我を折り=飽きれて】それは誠でござりますか。せいもんにかけてほれた。しからはなるほど中立いたしま
しよと。弥介がそばに来りけしかゝれは。弥介ゆめの心地にて。たかいにれんぼのてい《割書:爰にて。|めん有。》つぼね弥介を
尋ねしに。いどわの内にさぬきとふたりあれは。是はさてさぬき局。中宮とをしおされぬ中に。あのようなる
いやしきものとふぎのみつつうは何事ぞ。かみ【上】へ申あげん。やい弥介ごんこだうたん【言語道断】にくきやつじや。もはやのがれ
ぬと思いかくごせよといかる。弥介兄弟こは思ひよらぬ事にあふる事と。めいわくする所へ。中宮立出たまひ。何さ
ぬきのつぼねふぎをなしたるとや。もはやのがれぬ事ほう【法】のごとくにおこなわれよ。さぬきぜひなく身ゟいだ
せるさびなればたれをうらみ申べし。いかやう共なし給へ。つぼね聞成ほどしきほう【式法】におこない給ふぞ。やい弥介
大内のほう【法】の通りになれは命をたすけん。弥介して其ほう【法】はいかやうのしおきにてござります。いやべつ
の事てない。其方つまもちても其女をさりてあのさぬき殿をつまにするさほう【作法】。又一つはあの人にお子がある。
ことし六才にならせ給ふ。是をもつけてやるさほう【作法】といへば。弥介是はあまりうますぎだ御さほう。もとより
つまも候はねは子もなし。此うへはかし【町ヵ】つれて出つま子に仕らん。其お子はいづくにござります。みせて給はれと
いへば。さればの事其お子は。ごくやにおしこめて有。やすけきもをけし是はがてんのゆかぬ事。いまだ六つにならせ