翻刻
の如(ごと)く遠(とほ)くば大山(おほやま)近(ちか)くば鷹(たか)の巣(す)雲(くも)に聳(そび)へ霞(かすみ)に籠(こめ)
て其(その)風景(ふうけい)言語(ごんご)に盡(つく)しがたし
笛塚(ふへつか) 芦(あし)の湯(ゆ)より乾(いぬゐ)の方(かた)明礬山(みやうばんやま)の裾(すそ)少(すこ)し小高(こだか)き所(ところ)
をさしていふ昔(むかし)源|義光(よしみつ)が豊原(とよはら)時秋(ときあき)に笛(ふへ)の秘曲(ひきよく)を
伝(つた)へし處(ところ)なりとぞ
○箱根(はこね)
當驛(とうえき)は箱根(はこね)の嶺(たふげ)湖水(こすゐ)の汀(みぎは)にあり常(つね)に霧(きり)深(ふか)くして蚊(か)
蝿(はへ)少(すく)なく又|曇天(どんてん)多(おヽ)くして雨氣(あまけ)繁(しげ)し湖水(こすゐ)を隔(へだ)て北(きた)に
駒(こま)が嶽(たけ)神宮(しんぐう)山|公時(きんとき)山|及(およ)び箱根中(はこねちう)一|等(とう)の高山(こうさん)神山(かみやま)も
見(み)ゆ東北(とうほく)に二子(ふたご)山|南(みなみ)に日金(ひかね)山|西(にし)の方(かた)に富士(ふじ)山|鮮明(あざやか)
なり此地(このち)仲夏(ちうか)三|伏(ぶく)の日(ひ)も
炎熱(えんねつ)を知(しら)ず依(よつ)て外国人(ぐわいこくじん)の
暑(しよ)を避(さけ)て来(きた)る者(もの)多(おほ)し箱根(はこね)
の古街道(こかいどう)といふは富士(ふじ)の
根方(ねがた)より竹(たけ)の下(した)足柄(あしがら)の関(せき)
を越(こえ)て駒(こま)が嶽(たけ)の裾(すそ)を廻(まは)り
箱 二子(ふたご)宝蔵(ほうざう)が嶽(だけ)より湯本(ゆもと)山
根 にかゝり酒匂(さかは)川の上(うえ)を渡(わた)
圖 りて大磯(おほいそ)に出(いで)しより今(いま)の
街道(かいどう)は元和(げんな)二年より開(ひら)け