翻刻
古(ふる)い|家持(やもち)と比(く)らべて見れば。俄(にわか)分限(ぶげん)は|万事(ばんじ)
がひとい。悪(わる)ひ心(こころ)は見ならひ易(やす)く。|裏家(うらや)店(みせ)
売(うり)ぼてふりまでも。米(こめ)が安(やす)いと|見色(けんしき)高(たか)く。
|在郷(ざいごう)ものをば|足下(そつか)に見なし。|五十(ごじゅう)儲(まう)けりや
|口過(くちすぎ)あると。いふにいはれぬ|広言(くはうげん)吐(はい)て。|義太夫(ぎだゆう)
めりやす|新内節(しんないぶし)で。ちよつと|滑稽(じやれ)にも江(え)
戸(ど)まへばかり。それは扨(さて)おき此(この)|近頃(ちかごろ)は。|儒者(じゆしや)
の|風俗(ふうぞく)つく〴〵見るに。黒(くろ)の|羽織(はおり)に|大小(だいしやう)帯(たい)し。
詩(し)だの文(ふん)だの|講釈(こうしゃく)などゝ。鼻(はな)の高(たか)ひは天(てん)
狗(ぐ)にまさり。銭(ぜに)のないのは|乞食(こじき)に劣(おと)る。|昼夜(ちうや)
|大酒(おほざけ)|道楽(どうらく)つくし。己(おのれ)ばかりか|書生(しよせい)の者(もの)も。
金(かね)をつかふを|風雅(ふうが)と称(せう)し。道(みち)を守(まも)れる|正直(しやうぢき)
者(もの)は。鈍(どん)じや|阿房(あほう)じや|俗物(ぞくぶつ)などゝ。|冥加(めうが)しら
ずに|銭金(ぜにかね)まひて。|書物(しよもつ)にこつて親(おや)をば泣(な)かす。