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コレクション: STAGE5

安政見聞録 中 - 翻刻

安政見聞録 中 - ページ 17

ページ: 17

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山(やま)のごとき潮逆巻(うしほさかまき)。迸(ほとばし)りて岸(きし)を浸(ひた)し。その浪残数町(なごりすちやう)を超(こえ)て。山の 裾(すそ)を撃(げき)する音(おと)。天地(てんち)に響(ひゞ)きて怖(おそろ)しなど。いふ詞(ことば)もなかりけり。是(これ) を見て若者(わかもの)は大(おほい)に駭(おどろ)き恐(おそ)れツヽ。もしこの老人(らうじん)なかりせば。みな 底(てい)の。水屑(みくず)とならんを助(たす)けられしぞ忝(かたじけ)なき。と老人(らうじん)をふし拝(をが) めり。と或(ある)人の語(かた)りにき。これ蚇蠖(しやくとりむし)の伸(のび)んとして暫時屈(ざんじくつ)すると同(おな)蓆 し理(り)にして。海潮暴(かいてうにはか)に退(しりぞ)くときは。また暴(にはか)に来(きた)らんを察(さつ)し。其 難(なん)を避(さく)べきなり 又いふ余(よ)が友(とも)の知己(ちき)なる人。所用(しよよう)ありて京師(みやこ)へ登(のぼ)りしに。嘉永(かえい)七 甲寅十一月五日。帰路(きろ)にあたり。桑名(くはな)の海(うみ)を航(わた)りけるに。海岸(かいがん)の方(かた) を見れば。その音(おと)は聞(きこ)えねど。並松(なみまつ)ざは〳〵といふが《?:ごと》く。枝(えだ)うち交(か)は 《?:して動(うご)》くさま。什麼(そも)大風にやとおもへど。海上(かいしやう)は穏(おだやか)なり。故(ゆゑ)に乗(の)り 《?:組(くみ)の者(もの)》みな訝(いぶか)りて。一同(いちどう)にこれを見るに。暴(にはか)に澳(おき)の方|真黒(まくろ)くなり。 今見し方も見えずなれば。這(こ)はいかなる怪異(けい)な《?:らん。》と駭(おどろ)き思はぬ 者(もの)もなし。當下船長客(そのときふなをさきやく)にいふやう。これは必津浪(かならずつなみ)なり。はや遁(のが)るゝ に道(みち)なければ。人〻覚悟(ひと〴〵かくご)し給へといふ。彼人聞(かのひときい)て大に悲(かな)しみ。いかに してかこの難(なん)を脱(のが)るゝことあらば教(をし)てよ。といふに船長頭(ふなをさかうべ)をふり。決(けつ)し てこれを脱(まぬか)れがたし。たゞ天命(てんめい)に任(まか)すのみ。と答(こた)へて彼方(かなた)を佶(きつ)と見 る。彼人(かのひと)今はこれまでなり。と所持(しよぢ)なせし物のうち。いと尊(たふと)く大切(たいせつ) なるを。腹(はら)に括(くゝ)して覚悟(かくご)なす。折(をり)から潮涛〻(うしほたう〳〵)と。鳴(なり)たちて逆浪(げきらう)の。 うち返(かへ)すと思ふ所(ところ)に。乗(のり)たる船底逆浪(ふなそこさかなみ)の。撃(げき)する音(おと)してニ三丈 船(ふね)は虚空(こくう)へ閃(ひら)めき升(のぼ)り。暫(しばら)くして摚(だう)と落(おつ)れば。また逆浪(さかなみ)に撃(げき) せられて。升(のぼ)ること初めのごとく。かくすること以上五(いじやういつ)たび。船中(せんちう)の人〻は。皆(みな)