翻刻
【右丁】
あけ給へとたゝきけれど。あけで哥をなんよみて。出したりける
あら玉(たま)の年(とし)のみとせをまちわひてたゞこよひこそにゐまくらすれ
と。いひいだしたりければ
あづさゆみまゆみつきゆみ年をへて我(わが)せしかごとうるはしみ【注①】せよ
と。いひていなんとしければ女
あづさゆみひけどひかねどむかしよりこゝろは君によりにし物を
と。いひければ。男かへりにけり。女いとかなしくて。しりに立て【注②】をひ
行(ゆけ)とえおひつかで。し水の有所にふしにけり。そこ成ける岩(いわ)におよひ【注③】のち【血】して書付(かきつけ)ける
あひ思はでかれぬる人をとゞめかね我身はいまぞきへはてぬめる
と。かきてそこにいたづらになりにけり
廿五【丸で囲む】昔男有けり。あわしともいはざりける。女のさすが成けるがもとに。いひやりける
《割書:古今》秋の野にさゝわけし朝(あさ)の袖(そで)よりもあわでぬる夜ぞひぢまさりける
いろごのみなる女かへし
【注① 立派だと褒める】
【注② 後ろについて。】
【注③ および=指】
【左丁 挿絵ゝ】