翻刻
【右丁】
《割書:古今》見るめなきわが身をうらとしらねばやかれなであまのあしたゆくくる
廿六【丸で囲む】昔。男。五条わたり成ける女を。えゝず成にける事と詫(わひ)たりける人の返事に
《割書:新古今》おもほへず袖(そて)にみなとのさはぐかなもろこしふねのよりしばかりに
廿七【丸で囲む】むかし。男女のもとに。一夜(ひとよ)いきて。又もいかいかず成にければ。女の手あらふ所
に。ぬきす【注】をうちやりて。たらいのかげに見えけるをみづから
わればかり物おもふ人は又もあらじとおもへば水の下(した)にも有けり
と。よむをこさりける。をとこたちきゝて
みなくちに我(われ)やみゆらんかはづさへ水のしたにてもろこゑになく
廿八【丸で囲む】むかし。色(いろ)ごのみ成ける女。出ていにければ
などてかくあふこかたみに成にけん水もらさしとむすひし物を
廿九【丸で囲む】昔 春宮(とうくう)の女御の御かたの花の賀に召(めし)あづけられたりけるに
花にあかぬなけきはいつもせしかどもけふのこよひににる時(とき)はなし
三十【丸で囲む】むかし。おとこ。はつかなりける。女のもとに
【左丁】
あふ事は玉のをばかりおもほえでつらき心のながくみゆらん
卅一【丸で囲む】むかし。宮(みや)の内にてある。ごたちのつぼねのまへをわたりけるに。何
のあたにか思ひけん。よしや草葉(くさば)よならん。さがみんといふ男
つみもなき人をうけへばわすれぐさおのがうへにぞおふといふなる
と。いふをねたむ女もありけり
卅二【丸で囲む】むかし。物いひける女に。としごろありて
いにしへのしつのをだまきくりかへしむかしを今になすよしもかな
と。いへりけれど。なにともおもわずやありけん
卅三【丸で囲む】むかし。をとこ。つの国。むばらのこほりにかよひける女此たびい
きては。又はご【ママ】じとおもへるけしきなれば。をとこ
《割書:万葉》あしべよりみちくるしほのいやましに君に心をおもひますかな
かへし
こもりゑに思ふ心をいかでかはふねさすさほのさしてしるべき
ゐ中人のことにては。よしや。あしや。
【注 貫簀=竹で編んだ簀。手洗いの水が自分にかからないようにする道具。】