翻刻
【右丁】
さのみるに。くつは取てをくになげ入てのぼりぬかくかたはにしつゝ有わ
たるに。身もいたづらに成ぬべければつゐにほろびぬべしとて。此男いかに
せん。わがかゝる心やめ給へと。仏神(ふつじん)にも申けれど。いやまさりにのみ覚(おほ)えつゝ
猶わりなくこひしうのみおぼへければ。をんやうしかんなきよびてこひ
せしといふ。はらへのぐしてなんいきける。はらへけるまゝに。いとゞかなし
き事 数(かす)まさりて。有しよりげにこひしくのみをほへければ
こひせしとみたらし川にせしみそき神はうけずも成にけるかな
と。いひてなんいにける
此みかどは。かほかたちよくをはしまして。仏(ほとけ)の御名を。御心に入て。御
こゑはいとたうとくて申給ふをきゝて。女はいとふなきけり。かゝる
君につかうまつらで。すぐせつたなくかなしき事。此男にほだされてとて
なんなきける。かゝるほどに。みかど聞しめし付て。此男をばながしつか
はしてければ。此女のいとこの宮す所。女をはまる【ママ】てさせて蔵にこめてしほり給ふけれは蔵
こもりてなく
【左丁 挿絵】