東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: 学校教材発掘プロジェクト 1

伊勢物語 - 翻刻

伊勢物語 - ページ 27

ページ: 27

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【右丁】 六十三【丸で囲む】むかし。世。心つける女。いかで心なさけあらん男にあひえてしがなと 思へど。いひ出んもたよりなさに。誠(まこと)ならんゆめかたりをす子三人を よびてかたりけり。ふたりの子はなさけなくいらへてやみぬ。三郎成ける 子なん。よき御男ぞゐてこんとあはするに此女けしきいとよしこと人 はいとなさけなし。いかで此さいご中将にあはせてしかなと思ふ心有 狩(かり)しありきけるにいきあひて。道にて馬のくちを取て。かう〳〵なん 思ふといひければ。あはれがりてきてねにけり。扨のち男見えざりけ れば。女男のいゑにいきて。かいま見けるを。男ほのかに見て   もゝとせに一とせたらぬつくもがみ【注】われをこふらしおもかげにみゆ とて。出たつけしきを見て。むばらからたちにかゝりて。家(いへ)にきてうち ふせり。男かの女のせしやうに忍(しの)びて。たてりてみれば。女なげきてぬ【寝】とて 《割書:上句古今》さむしろに衣(ころも)かたしきこよひもや恋しき人にあはてのみねん と。よみけるを。男あわれと思ひて。其夜ねにけり。世の中の例(れい)として思 【左丁】 ふをば思ひ。思はぬをは思はぬ物を。此人は。思ふをも。思はぬをも。けぢめ見せぬ心なん有ける 六十四【丸で囲む】むかし男。女みそかにかたらふわざもせざりければ。いつく成けんあやしさによめる   ふく風に我身をなさば玉すだれひまもとめつゝ入べき物を かへし   とりとめぬ風には有とも玉すだれたがゆるさばか隙(ひま)もとむべき 六十五【丸で囲む】昔。おほやけおぼして。つかふ給ふ女の。いろゆるされたる有けり。お ほみやすん所とて。いますかりける。いとこ成けり。殿上(てんじやう)にさふらひける。あ り原(わら)成ける男の。まだいとわかゝりけるを此女あひしりたりけり。男 女がた【注①】ゆるされたりければ。女のある所にきて。むかひをりければ女いとかた はなり。身もほろびなん。かくなせそといひければ 《割書:新古今》思ふにはしのぶることぞまけにける逢にしかへはさもあらばあれ と。いひて。ざうし【曹司 注②】におり給へれば。例(れい)の此みざうしには。人のみるをもしら で。のほりゐければ。此女思ひわひて。さとへゆく。されば何のよき事と 思ひて。いきかよひければ。みな人聞てわらひけり。つとめてとのもづか 【注① 女方=女房の詰所である台盤所。】 【注② 宮中や貴族の邸内にある女官・官人などの宿所・部屋。】