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コレクション: コレクション3

種痘辨 - 翻刻

種痘辨 - ページ 8

ページ: 8

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【右頁】 凡親(およそおや)の子(こ)を愛(あい)するや禽獣諸虫(とりけだものもろ〳〵のむし)に至(いた)る迄其(までその)愛情(あいじやう、なさけこゝろ)同一(どういつ)といへども就中(なかんずく)人と して其子(そのこ)を愛育(そだ)つるは 或(あるい)は抱(いた)き或(あるい)は撫(な)ぜ或(あるい)は床上(とこのうへ)に百器(ひやくき、てあそび)を連(つら)ね其(その) 児笑(じわら)へは愈(いよ〳〵)これを愛(あい)し其児泣(そのじなけ)ば倍々(ます〳〵)慈(じひ)を加(くわ)へ美味(うまきもの)あれば先(まづ)これを 与(あた)へ其児(そのじ)これを食(くら)へば喜々然(さゝぜん、うれしそふに)として喜(よろこ)び児(じ)の頭(かしら)をなぜ音(こへ)を下(ひく)ふし て汝智(なんじしへ)あつて容色(すがた)も亦(また)人の児(じ)に優(まさ)れりと独語独舞(ひとりかたりひとりまい)は正敷狂者(まさしくきちかい)に 似(に)て其注意注目(そのきをくばりめをくばる)の愛情実(あいじやうまこと)に至(いた)らざる所(ところ)なく然所惆(しかるところいた)ましい哉彼(かなかの) 無稽(こゝろへなき)の医師(いし)に欺(あざむ)かれ種痘(しゆとう)は無益(むゑき)の事(こと)なりと思(おも)ひ唯神仏(たゞしんぶつ)に祈念(きねん) を恭(うしら)し遅々(ちゝ、ぐず〳〵)として日を送(おく)るの中(うち)■然(しうぜん、にわかに)として悪性(あくせい)の痘(とう、ほうそう)に罹(かゝ)り て九泉(きうせん、あいお)の下(もと)に往時(おかしいへとき)は手(て)に握(にきり)し珠(たま)を失(うしの)ふ心地(こゝち)して其衣服百器(そのいふくひやくき)を見(み)る 毎(ごと)に何度袂(なんどたもと)を湿(うるお)して永(なが)く是(これ)を忘(わす)れ難(がた)し又/偶(おめ〳〵)百死(ひやくし、からきいのち)を脱(のが)るとも天稟(かもれつき) 【左頁】 の艶色(たおやか、きれい)一朝(いてあさ)に醜■(とうしや、みにくひすがた)となり或(あるい)は清恨(せいこん)を亡(うしな)ひ或は赤色(あかいろ)の凹瘢(みつちや)となり 或は我眉(がび、まゆ)脱落(だつらく、ぬけて)して紅顔(こうがん、くれないのかを)一夜(いちや)に変(へん)ずる事恰(ことあたか)も春花の雨(あめ)に逢(お)ふが 如(ごと)し且友性(かつともたち)に疎(うと)まれ衆人(しよふじん)に指(ゆび)ざゝるゝ時(とき)は其父母(そのふぼ)の心意如何(こゝろいか)なるぞや 然(しか)して後(のち)種痘(しゆとう)の良法(りやうほう、よきほう)たる是(これ)を確(さと)るとも後(のち)悔如何(かわいいかん)ともする事(こと)なし 嗚呼憐(あゝあわ)れまざるべけん哉(や)悲(かなし)まざるべけん哉(や)希(■ねがわ)くは彼無稽(かのむけい)の医師(いし、いしや)も 亦我執(またこゝへたがい)を捨(あらため)て是(こ)の良法(りやうほう)を信(しん)ぜなば今日よりして是(これ)の苛酷(かこく、ゑぐい)の毒(とく)に 死(し)する者なきは論(ろん)なし尚且凹瘢麻面(なをかつおしはんま、みつちや)の者も無きにいたらば万(ばん) 民(みん)の幸(さいはいわ)ひ何(なん)ぞ是(これ)に過(すぎ)ん哉(や)余(われ)この書(しよ)を述(のべ)る事(こと)素(もと)より好(この)ま されども余多(あまた)の人命(じんめい)に関係(くわんけい、かゝる)すれば実(まこと)に止(やむ)事を得(ゑ)ざるが故 也有志(なりこゝろざしある)の君子是(くんしこれ)を怒(じま)し賜(たま)へ  甲子二月上梓