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待(まつ)こと相(あい)ならず。若(もし)違背(いはい)におよばゝ。某(それがし)奥(おく)へ踏込(ふみこみ)て御首(おんくび)打(うつ)べし。返荅(へんとう)
いかにといふ。山(さん)三郎しかるうへは是非(ぜひ)におよばず。某(それかし)命(いのち)あらんかぎりは。
御二方(おんふたかた)を渡(わた)すこと。まかりならずといひつゝ。はや身支度(みじたく)して。すはと
いはゞ斬死(きりしに)すべき勢(いきほひ)なり。眼平(がんへい)あざみ笑(わらひ)。大殿(おほとの)のおふせを背(そむ)く不忠(ふちう)
者(もの)。先(まづ)彼(かれ)を打取(うちとれ)と下知(げち)すれば。大勢(おほぜひ)一度(いちど)に乱入(らんにう)し。山(さん)三郎をとり
かこみ。火花(ひばな)をちらして戦(たゝかひ)けり。こなたは多勢(たせい)山(さん)三郎はたゞ一人といへども。
忠義(ちうぎ)するどき太刀(たち)さきに斬(きり)まくられ。しどろにくづれて大庭(おほには)までさつと
ひく。其(その)ひまに山(さん)三郎。奥(おく)の殿(でん)にはせまいり。姫君(ひめぎみ)若君(わかぎみ)にむかひ。父(ちゝ)が
吉左右(きつさう)うけたまはるまでは。一且(ひとまづ)館(やかた)を御(おん)たちのきあれかしといふにぞ。
月若(つきわか)の乳母(めのと)柏木(かしわぎ)といふ者(もの)。女(をんな)ながらもかい〴〵しきものにて。妾(わらは)は若君(わかぎみ)をあづかり
ておちゆくべし。山三(さんざ)どのは姫君(ひめきみ)を守護(しゆご)して御たちのきあれかしとて。いそ
がはしく身支度(みがまへ)し。若君(わかぎみ)をせおひ。長刀(なぎなた)を小脇(こわき)にかいこみて。後門(うらもん)より落(おち)
行(ゆき)ぬ。山三郎は姫君(ひめぎみ)をおひまゐらせ。つゞいてのがれ出(いで)んとしたるが。はや
後門(うらもん)にも打手(うつて)のつはもの立(たち)まはりてさゝへたれば。山(さん)三郎しやもの〳〵しと
よばゝりつゝ。多勢(たせい)のうちをきりひらきて。生駒山(いこまやま)のかたへぞおちゆきける
道犬(だうけん)が奸計(かんけい)の子細(しさい)をたづぬるに。偽筆(にせふで)の達人(たつしん)をたのみ。銀杏前(いてふのまへ)の
手跡(しゆせき)を見せて。偽願書(にせぐわんしよ)をかゝしめ一味(いちみ)のものをして。かねて庭中(ていちう)に埋(うづ)め
おきけるときゝつ
山三郎 姫(ひめ)をせおひておち行(ゆき)。生駒山(いこまやま)の麓(ふもと)の辻堂(つぢとう)において。危難(きなん)に
あふこと。つぎの巻(まき)を読得(よみえ)てしるべし
巻之二終