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官(くはん)に訴(うつた)へ奉(たてまつ)らば。御威光(ごゐくはう)をもて忽(たちまち)に。其(その)盗人(たうじん)は顕(あら)はるべし。命(いのち)にかへて盗(ぬす)み
するは。我(われに)等(ひと)しき貧人(ひんじん)にて。困窮(こんきう)遁(のが)るゝに道(みち)なく。拠(よき)なくも奪(うば)ひしならめ。
其(そ)を軽重(けいちう)とも罪(つみ)なはんは。情(なさけ)なく不便(ふびん)にて。迚(とて)も花咲(はなさく)春(はる)なき老木(らうほく)。此(この)
まゝに朽果(くちはてん)には。用(よう)なき品(しな)と思(おも)ひ捨(すて)。親族(うから)にも包(つゝ)み隠(かく)し侯得は。盗(ぬすみ)たるを
知(し)るものなく候と答(こた)ふ。公(こう)の曰(いはく)。汝(なんぢ)が申/披(ひらき)。其(その)理(り)あるには似(に)たれども。盗(ぬすみ)まれし
証(あかし)なくては。女(をんな)を害(がい)したるの疑(うたがひ)。解(とく)に道(みち)なかるべし。併(しかし)猶(なほ)其/証(あかし)の筋(すぢ)あらば。
追(おつ)て申/出(いづ)べしとて。其侭(そのまゝ)禁獄(きんごく)せられ。日(ひ)を重(かさ)ね月(つき)を越(こえ)て。さま〴〵穿鑿(せんさく)
ありといへども。他(ほか)に怪(あや)しき事(こと)もあらねば。重(かさ)ねて済田(さいだ)を召出(めしいだ)し。申/披(ひら)きの
筋(すぢ)やあると尋(たつね)給ふに。済田(さいた)謹(つゝしん)で。難有(ありがたき)君(きみ)の仁恵(じんけい)。骨(ほね)に彫(えり)て忘失(ばうしつ)仕(つかまつり)がたし。
去(さ)れども無冤(むじつ)に身(み)を果(はた)すは。是(これ)定(さだま)りたる悪因(あくゐん)にて。誰(たれ)を恨(うら)みん由(よし)もなし。
希(こひねがは)くは一日(いちにち)も早(はや)く刑戮(けいりく)を加(くは)へ給ふべし。時頼(ときより)かさねて。罪(つみ)の疑(うたがはし)きは軽(かろ)く
なせとの先言(せんげん)あれども。人(ひと)を害(がい)し物(もの)を奪(うば)ふ其(その)罪(とがは)。死(し)を以(も)てせずんば