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呼(よば)はるに。寝乱髪(ねみだれがみ)の下卑女(げすをんな)。朝(あさ)まだきにと呟(つぶや)きながら。戸(と)を打明(うちあけ)てさし
覗(のぞ)けば。侍(さふらひ)多(おほ)く囲繞(ゐにやう)して。壱人(ひとり)の大将(たいじやう)馬上(ばしやう)の体(てい)を。いかゝ心(こゝろ)に驚(おどろ)きけん。須破(すは)
盗賊(ぬすひと)の来(きた)りたり、起合々々(おきあひ〳〵)と喧(わめ)くほどに。亭主(あるじ)をはじめ有合(ありあふ)もの。突々(むく〳〵)と起(おき)
たちて。棒千切木(ばうちぎりき)と騒(さわ)き立(たつ)。時頼/寛爾(くはんじ)と打(うち)わらひ。さる無頼(ぶらい)の者(もの)ならず。
意(こゝろ)鎮(しづめ)て亭主(あるじ)に来れ。亭主(あるじ)此とき心付(こゝろつき)。目(め)を定(さだ)めて是を見れば。三ツ鱗(みつうろこ)
の烑(てう)【燈ヵ挑ヵ】灯(ちん)燈点(ともし)つれたり。亭主(あるじ)驚(おどろ)き持(もち)たる棒(ばう)を後(しりへ)へ投捨(なげすて)。馬前(ばせん)に蹲踞(そんきよ)し
卒忽(そこつ)を詫(わ)ぶる。時頼(ときより)其/狼狽(うろたへ)たる容(さま)を見て。却(かへつ)て興(けう)し。こはかの女(をんな)か暁(あかつき)まで。
盗難(とうなん)に逢(あひ)し夢(ゆめ)哉(がな)見つらん。苦(くる)しからず心(こゝろ)落居(おちゐ)よ。其時(そのとき)財布(さいふ)を主(あるし)が前(まへ)に
置(おか)せ。其金子(そのきんす)は汝(なんぢ)の軒(のき)に掛(かけ)たり。覚(おぼ)えありや。主(あるし)此とき頭(かしら)をあげ。私儀(わたくし)は
七郎兵衛と申。当所(たうしよ)の百姓(ひやくせう)にて候が。昨日(さくしつ)所用(ようじ)ありて。西(にし)の在郷迄(ざいまで)参(まい)り候
処。路傍(みち)に此財布(このさいふ)を拾(ひろ)ひ斯(か)ばかりの員数(いんじゆ)の金(かね)。失(うしな)ひし人の身(み)にては。左
こそ悲歎(ひたん)し有(ある)らんと。則(すなはち)横大路(よこおほち)なる傳蔵(でんざう)が許(もと)を尋(たづ)ね。かの主(あるじ)に面会(めんくはい)