Gallicaの日本資料を翻刻!

コレクション: コレクション3

. Japonais 180-181 - 翻刻

. Japonais 180-181 - ページ 153

ページ: 153

翻刻

けり。正治(まさはる)が妻(つま)これを察(さつ)し。六月四日の夜半(よわ)。侍女(じじよ)壱人を具(ぐ)して。密(ひそか)に 第(やしき)を忍(しの)び出(いで)。直(たゞち)に三浦(みうら)が西門(さいもん)にいたり。門(もん)を叩(たゝく)といへども。女ながらも夜分(やぶん)の 事(こと)なれば。容易(ようい)に門戸(もん)を明(あけ)されば。かの女(をんな)いへるは。斯(かく)物忩(ふつさう)の折(をり)からなれば 通(とう)されざるは去事(さること)なり。くるしからざる侭(まゝ)。門(もん)を守(まも)る輩(ともがら)よく聞(きゝ)て。泰村(やすむら)どのへ 伝(つた)ふべし。妾(わらは)は毛利正治(もうりまさはる)が妻(つま)にて。泰村君(やすむらきみ)はわが兄(あに)なり。元来(ぐはんらい)我夫(わがつま)正(まさ) 治(はる)は。将軍家(せうぐんけ)の近臣(きんしん)にて。北条(ほうでう)ぬしとは断琴(だんきん)の交(まじはり)なり。三浦家(みうらけ)には 妾(わらは)によつて親(したし)き縁者(ゑんじや)なれば。彼(かれ)に従(したが)へば是(これ)に叛(そむ)き。是(これ)を助(たす)くれば彼(かれ) に仇(あた)たり。故(ゆへ)に門(もん)を閉(とち)て双方(さうほう)へ参(まゐり)給ず。左(さ)こそ心(こゝろ)くるしく侍(はべ)るべし。兎(と) に角(かく)われだに無(なき)ならば。将軍(せうぐん)を守護(しゆご)し。忠義(ちうき)を全(まつと)ふなし給ふべく。仍(よつ)て 今生(こんぜう)の御名残(おんなごり)に。これ迄(まで)参(まゐ)りたるよし伝(つた)へよと。言葉(ことば)のうちより氷(こふり)なす。 守刀(まもりかたな)をぬき放(はな)ち。仏号(ぶつごう)を唱(とのふ)る声(こへ)諸(もろ)とも。胸元(むなもと)合破(がは)と貫(つらぬ)きて。腑臥(うつぶけ)に 伏(ふし)ければ。侍女(しぢよ)是(これ)を見(み)て一驚(いつけう)せしが同(おな)じく守刀(まもりかたな)もて。後(おく)れはせじと自害(しがい)