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翻刻
元服をなさせ給ひ。親王(しんわう)御諱(おんいみな)を一字(いちじ)賜(たま)はりて。時宗(ときむね)と号(ごう)せらる。同
年八月十六日。将軍(せうぐん)鶴岡八幡宮(つるがおかはちまんぐう)に御参詣(ごさんけい)まし〳〵。流鏑馬(やぶさめ)已下(いげ)古(こ)
例(れい)のごとく行(おこ)【おこなヵ】はれ。黄昏(くはうこん)に御所(ごしよ)に還(かへ)らせ給ふ。今日(けふ)供奉(ぐぶ)のうちに伊具(いぐ)
四郎/入道(にうどう)は。将軍(せうぐん)還御(くはんぎよ)のゝち。己(おの)が館(やかた)山内(やまのうち)に帰(かへ)らんと。召供(めしぐ)のものを前(ぜん)
後(ご)にうたせ。建長寺(けんてうじ)の東門外(ひがしもんぐはい)を通(とほ)りし。折節(をりから)小雨(こさめ)降出(ふりいだ)しにければ。入道(にうどう)は
馬(うま)を早(はや)めて通(とほ)る処(ところ)に。蓑笠(みのかさ)を着(ちやく)して馬(うま)に跨(またが)り。下部(しもべ)一人(いちにん)めし
連(つれ)たる者(もの)。伊具入道(いぐにうどう)が左(ひだり)の方(かた)を行違(ゆきちが)ふて駈(はしり)けるが。伊具(いぐ)四郎/入道(にうどう)いかゞ
做(なし)けん。馬(うま)より嘡(どう)と落(をち)たりける。郎従(ろうとう)驚(おどろ)き。走入寄寄(はしりよつ)て引立(ひきたて)んとするに。
不測(ふしぎ)や。何方(いづかた)より射(ゐ)たりけん。左(ひだり)の肋(わきばら)より大(だい)の箭(や)一筋(ひとすぢ)射込(ゐこん)だり。ことさら鏃(やじり)に
毒(どく)や塗置(ぬりおき)し。五躰(ごたい)の支節(ふし〴〵)離々(はなれ〴〵)となり。宛(あだか)も瓦石(くはせき)を袋(ふくろ)に入(いれ)たるが
ごとく。原(もと)より一言(いちごん)も物(もの)いはず。其侭(そのまゝ)有にて【「有にて」は「にこそ」ヵ】死(しゝ)たりける。郎従等(ろうどうら)がしらせに。
親族等(しんるいら)驚(おどろ)き惑(まど)ひ。直(たゞち)に時頼入道(ときよりにうどう)に訴(うつた)ふ。即(すなはち)鑑察使(けんさつし)を遣(つかは)して