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破戒(はかい)無徳(むとく)の福僧(ふくさう)を召(めし)て。修法(しゆはふ)読経(どきやう)なさしめ。許多(そこばく)の嚫金(しんきん)の賜(たま)ひ。
実(じつ)に持戒(ぢかい)有徳(ゆうとく)の名僧(めいさう)は。壱人(ひとり)も召(め)されず。勿論(もちろん)施(ほどこ)し給ふ事なし。されば
此(この)御供養(おんくやう)は慈悲(じひ)の作善(させん)にはあらで。只(たゞ)外見(くはいけん)名聞(めうもん)に似(に)て。所謂(いはゆる)高(たかき)に
土(つち)を置(かふ)てふ諺(ことはさ)のごとく。是(これ)牛(うし)の流(なかれ)に尿(いばり)するに不異(ことならず)やと。憚(はゞか)る気(け)もなくうち
笑(わら)へば。此(この)宰領(さいれう)も手(て)を拍(うち)て。実(げ)にも左(さ)なり解得(ときえ)て理(り)なり。かく是非(ぜひ)
を論(ろん)ずる御身(おんみ)は誰(た)そ。願(ねがは)くは住所(ぢうしよ)処名(せいめい)聞(きゝ)まほし。若士(わかうと)答(こた)へて。赤(あか)
橋辺(はしへんの)腐儒(ふじゆ)。青砥三郎藤綱(あをとさぶろうふぢつな)と申なり。再(かさね)て尋(たづね)給へとて行過(ゆきすぐ)る。二階堂(にかいだう)
の郎等(し)は館(やかた)に帰(かへ)り。雑具(さうぐ)を夫々(それ〳〵)取納(とりをさ)め。扨(さて)前司(せんし)入道(にうだう)に。藤綱(ふちつな)が一伍(いちふ)
一什(しじう)を語(かた)りければ。入道(にうだう)甚(はなは)だ感心(かんしん)のあまり。人(ひと)をして密(ひそか)に藤綱(ふぢつな)か行跡(ぎやうせき)を
聞糺(きゝたゞ)し。則(すなはち)最明寺殿(さいめうじとの)に落(おち)なく語(かた)られしかば。時頼(ときより)全身(ぜんしん)に汗(あせ)を流(なが)して。
藤綱(ふぢつな)が高論(かうろん)。些少(いさゝか)も陳(ちん)ずる処(ところ)なし。凡(およそ)仏事(ふつじ)作善(させん)といふは。慈悲(じひ)
愛憐(あひれん)を主(しゆ)として人民(じんみん)を恵(めく)み。就中(なかんづく)貧(ひん)を救(すく)ひ乏(ぼく)【「ぼく」は「ぼう」ヵ】を助(たす)くるをこそ供養(くやう)