Gallicaの日本資料を翻刻!

コレクション: コレクション3

. Japonais 180-181 - 翻刻

. Japonais 180-181 - ページ 209

ページ: 209

翻刻

憐(あは)れ己(おのれ)は。守殿(かうどの)の遠忌(ゑんきの)。作善(させん)に似(に)たる挙動(ふるまひ)かな。流石(さすが)は畜生(ちくしやう)なり けりと。独(ひとり)呟(つぶや)きて通(とふ)りけるを。此牛(このうし)の宰領(さいれう)せる士(さふらひ)は。二階堂(にかいだう)の郎等(らうどう) なるが。是(この)独言(つぶやく)を聞(きゝ)とがめ。異(こと)なる比諭(たとへ)を引(ひけ)る物かなと。彼若士(かのわかうど)が袖(そで) を曳(ひい)て。其許(おんみ)今(いま)牛(うし)の尿(いばり)を見て。守殿(かうどの)の御仏事(おんぶつし)に似(に)たるといへるが。 いかにしても解(けし)がたし。願(ねが)はくは其所以(そのわけ)を聞(きか)ん。彼士(かのし)打笑(うちわら)ひ。此頃(このころ)数日(すじつ) 喜雨(あめ)なきが故(ゆゑ)。田圃(たはた)に青(あを)き色(いろ)を見ず。諸民(しよみん)心(こゝろ)を悩(なやま)す折柄(をりから)。此牛(このうし)も 心(こゝろ)あらんには。田圃(たはた)路傍(みちばた)に尿(いはり)せば。忽(たちまち)纔(わづか)の潤沢(うるほひ)ともなるべきに。川(かは)の 中流(ちうりう)にて捨流(たれなが)するは。鎌倉(かまくら)とのゝ御遠忌(ごゑんき)を修(しゆ)し給ふごとし。抑(そも〳〵)当国(とうこく) 今(いま)繁昌(はんじやう)の時によつて。寺院(しいん)甍(いらか)を並(なら)べ。仏閣(ぶつかく)門扉(もんひ)を対(たい)す。しかれ共(とも) 名徳(めいとく)智行(ちぎやう)の高僧(かうそう)の住侶(ちうぢ)は。貧(ひん)にして飢(うへ)に苦(くるし)み。自(をのづ)から堂舎(どうしや)破壊(はえ)し。 無智(むち)無慙(むざん)の愚僧(ぐそう)現住(ぢうしよく)は。却(かへつ)て富有(ふゆう)にして食(しよく)に飽(あ)き。既(すで)に堂塔(どうとう) 赫然(かくぜん)たり去(さん)ぬる春(はる)の御仏事(おんぶつじ)。善美(ぜんび)を尽(つく)し給ふ御法会(ごはふゑ)ながら。皆(みな)