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しかれども。物見(ものみ)より市中(しちう)を臨(のぞむ)に。往返(わうへん)の人民(じんみん)飢渇(きかつ)に堪(たえ)かね。全身(ぜんしん)張(はれ)
満(ふくれ)し。眼鼻(めはな)凹(くほ)み。見る〳〵。餓鬼道(かきどう)の有(あり)さま。見るに忍(しの)びず。故(かるがゆへ)に己(おのれ)も
施行所(せぎやうしよ)を定(さだ)め。茶粥(かゆ)を焚(に)て手(て)づから是を施(ほどこ)さんがため也/泰時(やすとき)うち
合点(うなづき)。幼稚(やうち)ながらも仁慈(じんじ)の志(こゝろざし)満足(まんぞく)せり。去(さり)ながら流石(さすが)は幼(いとけな)し。数万(すまん)を
以(もつ)ても員(かぞへ)がたき飢人(うへびと)に。わづか一石米(いちこくのこめ)一車薪(いちだのたきゞ)を以(も)て。いかでか是(これ)に宛(あた)ら
んや。戒寿丸(かいじゆまる)又いはく。仰(おほせ)のごとく乞(こ)ふ処(ところ)の米薪(べいしん)。九牛(きう〴〵)が一毛(いちもう)には候えども
すこし存(そん)ずる旨(むね)も候えば。先(まづ)これを与(あた)へ給へと。平天(ひたすら)に懇望(こんもう)したまへば
泰時(やすとき)も不審(いふがし)ながら。兼(かね)て伶俐(れいり)の者(もの)なれば。乞(こふ)がごとく一石米(いちこくべい)一駄薪(いちだしん)を与(あた)
ふべき旨(むね)并(ならび)に施行所(せぎやうしよ)等の事。乳母子(めのとこ)長兵衛尉/忠廣(たゞひろ)に命(めい)し給ふ。戒(かい)
寿丸(じゆまる)感佩(かんはい)し。忠廣(たゞひろ)を以(も)て大路(おほぢ)に施行所(ばしよ)を建(たて)。大釜(おほがま)を数多(あまた)すへて
粥(かゆ)を焚(たか)ん用意(ようい)を做(なさ)しむ。忠廣(たゞひろ)申けるは。纔(わづか)一石米(いちこく)の粥(かゆ)に。かく大釜数(かまかず)
を居(すゑ)給はん事(こと)不用(ふよう)ならん。戒寿丸/打(うち)わらひ。先(まつ)我(わが)いふ侭(まゝ)に調(とゝの)へよ迚(とて)