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柴薪(さいしん)の高直(かうぢき)なる事/桂樹(けいじゆ)のごとし。人民(じんみん)困窮(こんきう)して。親(おや)を捨(すて)。子(こ)を売(うり)て。米(べい)
粟(ぞく)を求(もと)むといへども。朝夕(てうせき)の炊煙(すいえん)終(つひ)に竃(かまど)に絶(たえ)て。飲食(いんしよく)の便(たより)を失(うしな)ひ。面(おもて)を
さらして。道路(たうろ)に出(いで)。袖(そで)を広(ひろけ)て資銭(しせん)を乞(こ)ひ。名(な)を通(つう)じ高貴(かうき)の門(もん)に入て
腰(こし)を屈(くつし)て余糧(よれう)を求(もと)む。困民(こんみん)皆(みな)飢渇(きかつ)にせまり。阡陌(せんはく)溝涜(かうとく)に行倒(ゆきたふ)
れて。餓死(がし)するもの充満(みち〳〵)つゝ。見(みる)に魂(たましひ)を飛(とば)し。聞(きく)に胸(むね)を痛(いたまし)む。泰時(やすとき)見聞(けんもん)
に堪(たえ)ず。矢田(やた)六郎左衛門に命(めい)じ。米粟(べいそく)一万/石(こく)を窮民(きうみん)にあたふ。此とき
戒寿丸(かいじゆぐわん)十歳にて。泰時(やすとき)か膝下(しつか)に畏(かしこま)り。祖父(そふ)に願(ねが)ひ奉(たてまつ)る事の候。今天下(いまてんか)
飢饉(きゝん)して。人民(しんみん)困窮(こんきう)するが故。祖父君(そふぎみ)には数多(あまた)の米粟(べいぞく)を施(ほどこ)し給ふ。願(ねがは)くは
己(おのれ)にも米壱石(こめいちこく)と。薪一駄(たきゞいちだ)を与(あた)へ給(たま)はんや。泰時(やすとき)うち笑(わら)ひて。我(われ)今般(こたび)施米(せまい)
するは。貧民(きうみん)餓(うゑ)て業(ぎやう)を廃(はい)し。明日(あす)の命(めい)保(たもち)がたきを憐(あはれ)む処(ところ)也。御身(おんみ)は祖父(そふ)
に養(やしなは)れながら。何(なに)が故(ゆゑ)に施行(ほどこし)を請(うけ)んことを乞(こふ)や。戒寿丸(かいじゆまる)つゝしんで。仰(おほせ)のごとく。
われ倖(さいはひ)北条(ほうでう)の家門(かもん)に生(うま)れ。結構(けつこう)身(み)にあまり。何物(なにもの)としてか足(た)らずといふ事なし