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用意十分(よういじうぶん)なりしかば翌朝(よくてう)戒寿丸。かの施行所(せぎやうしよ)に出(いで)て。一石米(いちこくべい)を粥(かゆ)とし
て。戒寿丸/自(みづ)から杓(しやく)を取(とつ)て。往来(わうらい)飢渇(きかつ)の者(もの)に与(あた)へ給ふ。此事(このこと)一時(いちじ)に
鎌倉(かまくら)中に聞(きこ)え。御幼稚(ごやうち)の御身(おんみ)ながら。慈悲(じひ)哀憐(あいれん)を垂(たれ)たまふを感佩(かんはひ)し
老少(らうせう)をいはず戒寿丸が。手(て)づからの施物(せもつ)を賜(たま)はらんと。群参(ぐんさん)蟻(あり)の聚(あつまる)が
ごとく。一石米(いちこく)の粥(かゆ)忽(たちまち)に尽(つき)んする処(ところ)に。北条(ほうでう)が氏族(しぞく)および家門(かもん)より。戒寿
丸の見舞(みまひ)として。菓子(くはし)又は果物(くだもの)を進(しん)ぜらるを。厚(あつ)く礼謝(れいしや)し。直(たゞち)に
記帳(てうにしるさ)しめ。其/品々(しな〳〵)をこと〴〵く施物(せもつ)の資料(たし)となし。是(これ)は北条(ほうてう)何某(なにがし)ゟ。
或(あるひ)は某(それかし)の前司(せんじ)より。朕(われ)に饋(おく)られしを。汝等(なんちら)に与(あた)ふるなりと告(つげ)給ふて
施(ほどこ)し給へば。貧民(ひんみん)も物(もの)の多少(たしやう)によらず。一入(ひとしほ)仁恵(じんけい)を感佩(かんはい)し。涙(なみだ)を流(なか)さゞ
るは無(な)かりけり。此事(このこと)追々(おひ〳〵)世評(せひやう)高(たか)きにより。大小名(たいせうめう)はいふに及(およ)はず。御家人(ごけにん)
等(ら)まで。分限(ぶんげん)に応(わう)し。米銭(べいせん)焼飯(やきいひ)握飯(にぎりいひ)。あるひは餅(もち)団子等(たんごなど)。みな資(ほどこしの)
施(たすけ)として。施行所(せぎやうしよ)に奉(まいらす)る事/引(ひき)もきらず。戒寿丸/使者(ししや)に対面(たいめん)して。