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親近(ちかづく)こと。仏神(ぶつしん)の冥慮(めうりよ)空恐(そらおそ)ろし。况(いはん)や祈願(きぐはん)の身(み)にしあれば。免(ゆる)させ給へと
詫(わび)ければ。正覚(せうかく)この理(ことはり)を聞(きゝ)て。忙然(ばうぜん)として立(たつ)たる隙(ひま)に。足(あし)を速(はや)めて遁(のが)れ去(さる)。
正覚(せうがく)は漸(やう〳〵)心(こゝろ)われに帰(かへ)り。且(かつ)驚(おどろ)き且(かつ)歎(なげ)き。嗟呼(あゝ)悲(かなしき)かな〳〵。慾念(よくねん)に眼(まなこ)蔽(おほひ)て。
男女(なんによ)の境(さかひ)をだに見る事(こと)を得(え)ず。知(しら)ざる事(こと)にも女(をんな)に戯(たはぶ)れ。艶言(うつゝこと)を吐(はき)て誘(いさな)はん
とし。尊(たふと)き仏意(ぶつち)を汚(けが)したる。我心(わかこゝろ)こそ浅(あさ)ましけれと。三衣(さんえ)を払(はら)ひ本坊(ほんはう)に帰(かへ)り。
直(たゞち)に本尊(ほんそん)に向(むか)ひ奉(まつ)り。観念(くはんねん)の座(ざ)に入(いり)て。更(さら)に意(こゝろ)を。清浄界(しやう〴〵かい)に遊(あそ)ばんとするに。
忽(たちまち)先(さき)に見し。童(わらは)の面影(おもかげ)目前(もくぜん)に遮(さへぎ)り。妄執(もうしう)の雲(くも)座禅(ざぜん)の床(ゆか)に蔽(おほふ)ふ。是(こ)は
浅猿(あさまし)く忌(いま)はしゝ。女(をんな)と知(し)りなば忽(たちまち)に。妄念(まうねん)も頓(とみ)に晴(はる)べきに。一たび眼(まなこ)にさへぎる
処(ところ)。早(さや)くも心(こゝろ)に染(そみ)うつり。去(さら)んとすれど立(たち)も離(はな)れず、破戒(はかい)堕落(だらく)の身(み)と
なる歟(か)と。本尊(ほんぞん)に投伍(とうご)して。清浄心(しやう〴〵しん)を求(もと)むれども甲斐(かひ)なし。於是(こゝにおゐて)正覚(せうがく)
房(ばう)。つく〳〵と思(おも)へらく。抑(そも〳〵)不動明王(ふどうめうわう)の利剣(りけん)といつは。煩悩(ぼんにふ)【ぼんなふヵ】の離(はな)れがたきを。絶(たち)給ふ
の刃(やいば)なれば。我(わ)が一心(いつしん)を以(も)て。明王(めうわう)の冥助(めうじよ)を祈(いの)らば。いかでか慾念(よくねん)断(たゝ)ざるべき。