東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: 学校教材発掘プロジェクト 1

日本山海名産図会 - 翻刻

日本山海名産図会 - ページ 91

ページ: 91

翻刻

【右丁】  ○比目魚(ひもくぎよ)と云(いふ)は鰈(かれ)の惣名(そうめう)なり本草(ほんそう)釈名(しやくめう)鞋底魚(けいていぎよ)と云はウシ  ノシタ又クツゾコと云(いう)て種類(しゆるい)なり鰈(かれ)の字(じ)これに適(かな)へり若狭(わかさ)蒸(むし)  鰈(かれ)のことは大和本草(やまとほんさう)に悉(くわ)しくいへり東国(とうこく)にてはヒラメと云  ○鯛(たい)は本草(ほんぞう)に栽(の)#1せす是(これ)亦(また)大和本草(やまとほんさう)に悉(くは)し故(ゆへ)に略(りやく)す鯛(たい)の字(じ)此(この)  魚(うを)に充(あて)てつたへしこと久しけれとも是(これ)棘鬣魚(きよくれうぎよ)を正字(しやうし)とす神代(しんたい)  巻(まき)に赤目(あかめ)と云(いう)又(また)延喜式(ゑんきしき)に平魚(へいきよ)と書(かき)しはタヒラの意(ゐ)なり中(なか)  にも若狭鯛(わかさたい)はハナヲレ又レンコといひて身(み)小(せう)にして薄(うす)し色(いろ)淡黄(たんくわう)  にして是(これ)一種(いつしゆ)なりハナヲレの義(き)未詳(つまびらかならず)他国(たこく)の方言(はうげん)にヘイケ又  ヒウダヒといふもともに平魚(へいぎよ)の転(てん)なるべし万葉(まんよう)九 長哥(なかうた)   水(みづ)の江(ゑ)の浦島(うらしま)が子(こ)が堅魚(かつを)つり鯛(たい)つりかねて七日まて《割書:下略|》虫丸    ○鯖(さば)  丹波(たんば)但馬(たしま)紀州熊野(きしうくまの)より出(いだ)す其(その)ほか能登(のと)を名品(めいひん)とす釣捕(つりと)る法(はう) 【左丁】  何国(いつく)も異(こと)なることなし春夏秋(しゆんかしう)の夜(よ)の空(そら)曇(くも)り湖水(しほ)立上(のほ)り海上(かいしゆう)  霞(かすみ)たるを鯖日和(さばひより)と称(せう)して漁船(きよせん)数百艘(すひやくそう)打並(うちなら)ぶこと一里( り)許(はかり)又(また)一里   許(はかり)を隔(へた)て並(なら)ぶこと前(まへ)のごとし船(ふね)ごとに二ツの篝(かゞり)を照(て)らし万火(はんくわ)《振り仮名:𤆞々|こつ〳〵》   として天(てん)を焦(こが)す漁子(あま)十尋(とひろ)許(ばかり)の糸(いと)を■(お)#2にて巻(ま)き琴(こと)の緒(お)のごと  き物(もの)に五文目(ごもんめ)位(くらい)の鉛(なまり)の重玉(おまりたま)を付(つけ)鰯(いわし)鰕(ゑび)などを飼(ゑ)とし竿(さほ)に付(つけ)る  ことなし又(また)《振り仮名:但馬の国|たじま  くに》にては釣針(つりはり)もなく只(たゞ)松明(たいまつ)を振立(ふりたて)其影(そのかげ)波浪(はらう)  を穿(うがつ)がごときに魚(うほ)隨(したがつ)て踊(おど)りておのれと船中(せんちう)に入(い)れり是(これ)又(また)  一(いつ)奇術(きじゆつ)なり船(ふね)は常(つね)の漁船(ぎよせん)に少(すこ)し大(おほき)にして縁(ふち)低(ひく)し越前(ゑちぜん)尚(なを)大也  ○鯖(さば)の字(じ)和名抄(わめうせう)にアヲサバと訓(くん)ず本草(ほんざう)に青魚(せいきよ)又 鯖(さば)とあるは  カドといひてニシンのことなり其子(そのこ)をカズノコ又カトノコと云(いう)  サハの正字(しやうじ)未詳(つまひらかならす)○サハといふ義(ぎ)は大和本草(やまとほんざう)に此魚(このうほ)牙(は)《振り仮名:小|□□□#3》也  故(ゆへ)に狭歯(さは)と云(いふ)狭(さ)は小(しやう)也云々 東雅云(とうがにいふ)古語(こご)に物(もの)の多(おゝ)く聚(あつま)りたる  をサバと云へば若(もし)其儀( ぎ)にもやと云々いづれか是(ぜ)なりとも知(しら)ず

現代語訳

【右丁】 ○比目魚(ひもくぎょ)というのは鰈(かれい)の総名である。本草釈名に鞋底魚(けいていぎょ)というのはウシノシタ、またクツゾコといって種類である。鰈の字はこれに適している。若狭の蒸し鰈のことは大和本草に詳しく述べられている。東国ではヒラメという。 ○鯛は本草に載せていない。これもまた大和本草に詳しいので省略する。鯛の字をこの魚に当てて伝えることは久しいけれども、これは棘鬣魚(きょくりょうぎょ)を正字とする。神代巻に赤目といい、また延喜式に平魚と書いたのはタヒラの意である。中でも若狭鯛はハナヲレまたレンコといって身が小さくて薄い。色は淡黄で、これは一種である。ハナヲレの意味は不明。他国の方言でヘイケまたヒウダヒというのも、ともに平魚の転であろう。万葉九巻の長歌に  水の江の浦島が子が堅魚釣り鯛釣りかねて七日まで《以下略》虫丸 ○鯖 丹波・但馬・紀州熊野より出る。そのほか能登を名品とする。釣り捕る方法は 【左丁】 どの国も異なることはない。春夏秋の夜の空が曇り、潮が立ち上がり、海上に霞がかかるのを鯖日和と称して、漁船数百艘が打ち並ぶこと一里ばかり、また一里ばかりを隔てて並ぶこと前のごとし。船ごとに二つの篝火を照らし、万火がこうこうとして天を焦がす。漁師は十尋ばかりの糸を手で巻き、琴の緒のような物に五匁位の鉛の重り玉を付け、鰯・海老などを餌として、竿に付けることはない。また但馬国では釣り針もなく、ただ松明を振り立て、その影が波浪を穿つがごとくに魚が従って踊り、おのずと船中に入る。これもまた一つの奇術である。船は普通の漁船より少し大きくして縁が低い。越前はなお大である。 ○鯖の字は和名抄にアヲサバと訓ずる。本草に青魚また鯖とあるのはカドといってニシンのことである。その子をカズノコまたカトノコという。 サバの正字は不明。○サバという意味は大和本草にこの魚の牙が小さいので狭歯(さば)という。狭は小である云々。東雅によれば古語に物が多く集まったのをサバといえば、もしその意味かもしれないという云々。いずれが正しいかは分からない。