翻刻
さるほとに浦嶋おもふやうりう宮にて亀か形
見とてあたへし箱あくる事なかれといひけれ
とも今はなにかはせんあけてみはやとおもふこそよ
しなけれ此箱あけてみるに内より紫の雲み
すちたちのほりける浦嶋太郎廿四五はかりのよは
ひもたちまちにかはりはてゝひたいには四かいの波を
たゝみかしらのかみは雪をいたゝきまゆには八しゆの
霜をたれせつなの程にみるもいふせき【いぶせき=うっとうしい】おきなの
すかたと成にけるこそくやしけれ其後浦嶋は
靏になりてこくう【虚空=大空】にあかりけり抑此浦嶋か
よはひを亀かはかりことゝして七百年の
老の波を箱の中にたゝみ入ぬるゆへに久しく
よはひをたもちけるとや古きうたにも
君にあふよは浦嶋か玉手箱あけてくやしき我涙哉
しやう【生】あるものいつれもなさけをしらぬといふ
事なしましてや人間のしやうをうけて恩を
みてそのおんを思ひしらさるはほくせき【木石=木と石。転じて人間としての情を解さないもの】にたとへ
たり契りふかきふうふは二世のえんそかしこの
浦嶋は靏になりてほうらいにあひをなす【愛をなす=(子供などを)かわいがる】亀は
又こうにみせきの祝をそなへて萬世をへぬるとなり
【絵の後の行】
さてこそめてたきためしにも靏と亀