翻刻
言しほとに来れるもの也けり貞輔は今年二十一歳にて
をとつ年の秋津軽を出て駿河国静岡中学校の
教師中村敬介方の塾にありしかと去年教師敬介
東京にめされて出しより学友は人手をわかちて諸国
めくりありきて西京にて出会東京にものすへき契り
なりけりとそさて此人今月六日周防の山口を出て
石見の津和野に着宿入せる否大震ふるひける程に
二階より飛下りしに其家はいふに不及あたり
なへて砕け潰れたりとなん其夜野宿して七日
浜田にて野宿し八日何とかいへる所にて野宿せりとなん
石州路三日いつ方もかくのことくにて十方にくれ
けりとそ扨出雲路はいかにと尋ぬるに山陰道は
なへてかはる事なしといへれは今はすへなし安芸路ゟ
西京にと志して石見の何とか言へる所より備後を
さして何とかいへる所に行着て漸宿入せるに
そこに松江より出て行とまれる旅人に相宿りして
こなたの事聞しに松江に潰れたる家は一軒もなし
といへるほとにさらはとて又此方に向赤名と三刀屋
と二宿を経てきたれりといへりさて一首をと
望めれはよみて遣しける