翻刻
怪談御伽わらは巻四
三州八名郡山伏の死霊
棄義(きをすて)背理(りにそむき)不知其悪(あくをしらず)有時亡(ときにありてほろぶ)とかや往(すぎ)しころ
三河国守に仕(つか)ふる士(さむらひ)に山香(やまが)佐野右衛門とて二百石
を知行し器量(きりやう)骨(こつ)がら優美(ゆうび)にして武士道はいふ
におよばず遊芸(ゆうげい)にさとく心あくまて剛(こう)にして仁愛(じんあい)
ふかく文武(ぶんぶ)備(そな)はりたる士あり此人殊に猟(かり)を好み勤仕(きんし)
のいとまには朝(あした)に山(さん)野へ出て狩(かり)くらし夕陽(せきやう)をおしむけ
ふも例(れい)のごとく未明(みめい)に弓(ゆみ)うちかたけ【担げ】矢筒(やつゝ)おひて出
たり終日(しうじつ)伺(うかゞ)ひゆけど兎(うさぎ)壱つ小鳥の一 羽(は)も得ず