翻刻
百姓(ひやくしやう)出?させる日にあたりしとてわれらをまねきて
酒(さけ)をあくまてまいれとて大きなるかめに酒をたゝへ
ていだしすへたりそれを残(のこ)らず呑(のみ)尽(つく)して少(すこし)酔(ゑい)たり
と思ひしより外終(つゐ)に酔(ゑい)たる覚なし夫よりして
われらが異名(ゐみやう)を猩々(しやう〴〵)和尚といふぞとかたられし
その頃本庄五つ目あたりに三木(みき)酒之助といへる士(さむらい)有
此人も聞ふる酒呑にて一とせ大坂へゆかれし時名に
あふうかふせにて共七盃迄 息(いき)せずにつゞけさまに
呑れしとて虚実(きよじつ)はしらず自慢(じまん)の大酒なりしが
同気相 求(もとむ)るのことはりかや此和尚といと入魂(じゆつこん)して折
毎(こと)に往来(をうらい)せしが在(ある)時酒之助寺へ入来りけれは和尚
も其日は徒然(とせん)にてゐられしかは悦て対面(たいめん)し例(れい)の
酒 盛(もり)せうてけるに互(たかい)に甲乙(こうをつ)なく日もかたふけは酒
之助いとま申て帰らんとせしが和尚にいひけるは
多(た)年 呑合(のみあふ)といへとも未(いまた)その強弱(きやうしやく)をわかたす何
さま近日一 会(くはい)を催(もよほ)してその甲乙(かうをつ)はかり見て先生(せんせい)
とせんといへは和尚を初め同宿 弟子(てし)中も是は興(けう)
ある事ならんいて〴〵さはりなき日をさして互(たかい)に兼(けん)
約(やく)あれかしとすゝむれは和尚八月十五夜こそ
よからんとあれは酒之介もさなんとてかへりぬ程