翻刻
もなく其日に成けれは酒之介は夕くれかたに寺へ
入来て物かたりするうちに初夜も過て月は名(な)に
あふ二千里(せんり)の外古人(こしん)も今(こん)人も素面(すめん)の楽(たの)しみは
おかしからしと端近く出て物語するに勝手【?】より大
きなる盤(はん)に盃(さかつき)二つすへいもやうのさかなあまた調(とゝの)
へ持(もち)出二人の中へ直(なを)し扨(さて)四 斗(と)樽(たる)を二人してかき
来り樽のかゝみを打ぬき柄杓(ひしやく)を二本【?】そへて盤(はん)と
同しくならべ置(をき)て皆々勝手【?】へ入けれは和尚のけふは
杓人(しやくにん)の給仕(きうし)のと人ませせんもむつかし彼らも今宵(こよひ)
は目見て楽しまんと思ふらめと思ひ取てこそか
くははからひ侍りし是をなづけて猩々(しやう〴〵)呑(のみ)と号(がう)し
侍らふとたはふれていざこしめせとて銘々(めん〳〵)盃(さかづき)柄杓(ひしやく)
取 持(もち)彼(かの)樽(たる)よりも汲(くみ)あげ〳〵夜と共にのめる有さま
月はくまなくさえて庭(には)の池水に影(かげ)すみわたり潯(じん)
陽(やう)の江もかくやあらんと思ふに夜半斗に一樽 汲(くみ)ほし
けれは和尚僧と呼(よび)てけう一樽もてこよとあれは心
得て又一樽もちきりてかゞみ打ぬき夫よりさけ
あらたまりしとて又くみかわしけれは月入夜も
ほの〳〵と此樽も同し句明て仕廻(しまひ)ぬさすがの
酒之介も是(これ)までに覚ず心よく酔(ゑい)たりちと休(やすみ)