翻刻
心おちつきて契(ちぎ)り異(こと)なるいもせの中なり母は
かゝる事とは夢(ゆめ)にもしらで主水(もんと)がうきたるさ
まの一人 寝(ね)をたえず心くるしく見しに美(み)め
かたちも思ふまゝなる人をむかへ居(すへ)たれば嬉(うれ)しさ
かぎりなきにもおさよが事は忘(わす)れず此人おさよ
に似(に)たるかと思ひ合(あわ)すれどわづかに六つになりし
時の稚顔(をさながほ)さらにおもひよらず此よめは今を盛(さかり)り
の年(とし)の程(ほと)にていと清(きよ)らかにけだかく心ざしもなる
事【?】にまさりて優(ゆう)にやさしく情(なさけ)ふかしいづこにて露(つゆ)
難(なん)ずへき所もなし三人ともに下もへ【?】の思ひは深(ふか)く
ありそうみのつきぬまさごのかず〳〵もいらねは
こそあれみなひとつ思ひにやるせなき月日
もたちて文(ふみ)月十三日になりぬ母は老(おひ)の一かたに
仏(ほとけ)の道(みち)を思ひ入たまだなに供物(くもつ)そなへなどして
おしがもろとも取いそぎぬこれは何某(なにがし)彼(かれ)は
誰(たれ)と裂(れつ)を定(さだ)めしその中に雅名(をさなな)の書しあり見れ
は橋崎宇根右衛門 娘(むすめ)さよとしるせりおしがいと
ふしんなる体(てい)にて母に向(むか)ひ是(これ)はいかなる人の
しるしに候やと尋(たつぬ)れは母はしばしいらへもせで
涙(なみだ)にくれしが夫(それ)につきてはあはれなることこそ