翻刻
内に五平次 内意(ないゐ)の者あり折節 領主(りやうしゆ)左文字
の刀(かたな)御 尋(たづね)有けるを時こそと悦ひ兼(かねて)而聞及(きゝおよび)し
浪人の刀 無疵(むきす)にしてすく【直】御 好(この)みに合なは価(あたひ)の
甲乙(かうおつ)はその節 極(きはむ)べしと五平次へふき込(こみ)けれは
心得(こころへ)て浪人方へ行(ゆき)何となく世のいとなみのおくり
かたき事を語(かた)りて扨(さて)とくより心付たれど申
かね今迄 延引(ゑんゐん)致たり御所持の左文字の刀
御 払(はら)ひ被成当分の要用(よう〳〵)を御 足(たし)ありて此 困(こん)
窮(きう)をしばらく御のがれ候はゝ其内御有付の口
も有まじきものにあらずさもあらは我等(われら)の肝(きも)
煎(いり)いたし進(しんじ)候はんと領主(りやうしゆ)の御 望(のぞみ)とはわざといわず
うらとひける浪人申けるは此 日頃(ひころ)御 懇意(こんゐ)に
預り内外御 世話(せわ)被下候上はつゝみ申べきやう
なしなが〳〵しき物語(ものかたり)に候へとも我等浪人せし発(ほつ)
端(たん)は此刀故にて候 先祖(せんぞ)より代々 持(もち)伝(つた)へし一 腰(こし)
にて随分(ずいぶん)秘蔵(ひさう)せしに召使(めしつかひ)ともの此刀を盗(ぬすみ)出し
逐電(ちくてん)せしむる刻(きざみ)同家中の士(し)へ金弐十両に
売渡(うりわたし)し候由それとは不存(ぞんぜす)四方(しほう)へ手(て)を廻し彼(かの)
家来(けらひ)を尋(たづね)候ひしに越中国(ゑつちうのくに)新川辺(にゐかわへん)にて見付 召(めし)
捕(とら)へ来りさま〳〵拷問(がうもん)いたし候へは太刀は何某(なにがし)方(かた)