翻刻
へ員数(いんじゆ)是程に売代(うりしろ)なし候旨 白状(はくじやう)に及(およ)ひ候こ
れにより科人(とがにん)召(めし)つれ彼(かの)士(さむらひ)の方(かた)へ罷(まかり)越(こし)旨趣(しゆい)物(もの)
語(かたり)いたし先祖(せんぞ)より持来(もちきたり)候刀(かたな)ゆへ我等(われら)代(だい)になり他(た)
家(け)へ渡(わた)さん事 本意(ほんゐ)を失(うしな)ひ候金子有合無之候まゝ
当(とう)暮(くれ)物(もの)成(なり)取(とり)候はゝ返進(へんしん)可致(いたすべく)段(だん)証文(しやうもん)認(したゝめ)遣し置度
所存(しよぞん)一 腰(こし)は返(かへ)し給はれと相 頼(たのむ) ̄ム所(ところ)に彼(かの)士(さむらひ)申は
とかく金子持参せざらんにおゐては刀(かたな)渡(わた)しかたき由(よし)
申に付 立帰(たちかへり)り右 家来(けらい)は打首(うちくび)にし請人へ渡(わた)し
いかなる重宝(ちやうほう)ありとても彼(か)の刀にはかへじと存(そんじ)
可然(しかるべき)もの共 売払(うりはら)ひやう〳〵金子弐十両 支度(したく)
いたし右の士かたへ持参して刀 請取(うけとり)可申 由(よし)申入
れば他出(たしゆつ)たりとて対面(たいめん)せず如此(かくのごとく)する事すでに
五 度(たび)に及(およ)べり漸(やう〳〵)登城(とじやう)の節(せつ)途中(とちう)にて逢(あい)たりし
を幸(さいはひ)に立(たち)ながら金子とゝのひし間一 腰(こし)返(かへ)し
給はれよといふに色違(いろちが)へして先日 断(ことはり)申 達(たつ)したる
節(せつ)は格別(かくべつ)夫(それ)より日数(ひかず)も立(たち)何(なに)の沙汰(さた)もなきゆへ
もはや入用無之と存所々こしらへ申付 自分(じぶん)
差料(さしりやう)にいたし則(すなはち)爰(こゝ)に帯(たい)したり只今にいたり
返進(へんしん)申儀叶(かな)ひがたし御前へ上り候間 重而(かさねて)申
述(のぶ)べくと言捨(いひすて)行過(ゆきすぐ)る無念(むねん)心魂(しんこん)にてつし